2月半ばには-1.8°だった環の傾きはさらに大きくなって、3月半ばには-3°近く
になりました。環と本体の間の空間はかなり幅広くなり、環の両端近くにはカシ
ニの空隙がはっきりと見られるようになっています。さて、皆さんはこの間に環
の見え方が変化したことに気づいたでしょうか?答えは環の影の見える位置にあ
ります。2月までは太陽の方が環の平面との傾きが大きかったので、環の影はA環
の外側(北)に見えていましたが、3月になると地球の方が傾きが大きくなったた
め、環の影は内側に移動しています(おそらく、C環と一部重なっていると思われ
ます)。
なお、毎年恒例となっているハイリゲンシャイン現象(衝効果)が今年も観測され
ています。これは、衝の頃には太陽−地球−土星が一列に並ぶため、環の構成粒
子の影や太陽光の当たらない部分が見えなくなり、環が通常よりも明るく見える
現象で、3月の画像では、土星本体よりも環の方が明るくなっています。
土星面本体では、当観測期間も白斑などの模様が観測されています。年初に出現
した赤道帯(EZ)北部の小白斑は、現在も明るく目立っています。3月12日の阿久
津氏の画像でIII=151.6°(同氏測定)にあり、+1.0°/dayのドリフトで後退運動
を続けています。白斑の緯度は北緯8.6°と、環のすぐ北側にあるので、環が開
いてくると観測に不利ですが、前述のように、北側にあった環の影が南側に移動
したため、今のところ影響はありません。ただし、今後さらに環が開くと、見え
にくくなると予想されます。
南半球では、南熱帯(STrZ)北部に白斑が捉えられています。経度はIII=340〜
345°と、12月に観測された場所に近く、同じものという可能性もあります。3月
6日のGo氏の高解像度の画像では、白斑は不規則な形状で、不安定な印象を受け
ますので、弱い活動が間欠的に繰り返されているのかもしれません。
EZにありながらIII系に乗った運動が疑われているEZ南部の暗斑は、2月18日の阿
久津氏の観測だけでした。III系での経度は60°付近で、先月話題になったもの
とは一致しませんが、2月2日に柚木氏が捉えた暗部とほぼ同じ経度でした。
当観測期間は、タイタンの土星面経過が2月24日と3月12日に起こりました。特に
3月12日はタイタン本体だけでなく、タイタンの影も同時に経過し、多くの観測
者が撮像に成功しています。タイタン本体は北極付近をかすめただけでしたが、
巨大な影が北極地方(NPR)を横切って行く様子は壮観でした。今シーズンにおけ
るタイタンの経過現象はこれが最後で、次は2025年の環の消失時まで待たなけれ
ばなりません。
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[図1] 土星面を経過中のタイタンの影と離出直後の本体 2009年3月12日 11:50UT I=121.0° III=101.0° 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) 中央左にEZ北部の白斑が見られる。 |
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他にもテティスやディオーネなどの経過現象が観測されていますが、タイタンに
比べるとたいへん小さいため、捉えるのはかなり厳しかったようです。それでも、
3月7日のテティスの経過は、阿久津氏とGo氏の画像で明瞭に見ることができます。
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