天文ガイド 惑星の近況 2009年8月号 (No.113)
堀川邦昭、安達誠

土星は5月17日に留、6月5日に東矩を迎えて、西空に傾くのが早くなっています。 一方、木星は5月16日に西矩を過ぎ、夜半過ぎの東天に昇るようになりましたの で、夜空の主役が交代する時期はもうすぐです。火星は視直径がまだ5秒足らず と、小望遠鏡には厳しい対象です。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

当観測期間の木星面では、北赤道縞(NEB)の活動が注目されます。3月から観測さ れているリフト領域(R1)に加えて、4月に形成された2つのリフト(R2、R3)が順調 に成長し、現在、木星面では3ヵ所で長さ50〜70°のリフト領域が見られます。 どれも活動的で、斜めに傾いた領域の内部は激しく乱れています。6月初めにお けるR1〜R3の位置は、それぞれII=120°、II=350°、II=260°となっていて、R1 は体系IIに対して1日当り-3.5°で前進していますが、R2とR3は1日当り-4.5°と 大きな値となっています。また、東西に伸長し続けているため、R3の後端とR2の 前端はオーバーラップしつつあります。

一方、4月に小赤斑(LRS)と疑われる茶色い模様が観測された大赤斑(RS)の北側の NEB北縁では、前述のリフト領域R1の通過に伴って、青みの強い大きな暗斑が出 現しました。この暗斑は極めて短期間で形成されたようで、5月28日にリフト領 域からベルト北縁に白雲が流れ出すと、わずか3日後の31日には、II=137.0°に 極めて暗い大型の暗斑が形成されてしまいました。6月に入ると、暗斑はNEBを離 れて北熱帯(NTrZ)を前進し始め、後方には別の暗斑が形成される兆候が見られま す。英国天文協会(BAA)のロジャース氏は、細かったNEBが再び拡幅するきっかけ となるのではないかと述べていて、今後どのように発達するか注目されます。

大赤斑はII=135.5°(5月31日)にあり、少し赤みが戻ったように思われます。5月 上旬に後端部のSEBで見られたこぶ状の盛り上がりは、大赤斑とSEBをつなぐブリ ッジとなり、大赤斑前方には軽微なストリークも出現しましたが、本体には影響 なかったようです。

大赤斑前方の南赤道縞(SEB)は、幅広い南赤道縞帯(SEBZ)によって大きく二条に 分離していますが、大赤斑後方ではSEB南組織(SEBs)が厚く、SEBZは狭くなって います。SEB南縁は概ね平坦で、ジェットストリームの活動は今のところ見られ ません。

永続白斑BAはII=331.2°(6月8日)に進んでいます。高解像度の画像で見ると、内 部には複雑な濃淡と中心に白い核が見られますが、周囲とのコントラストは低く なっています。後方にあった南温帯縞(STB)の暗部は、小さな暗斑に縮小してし まいました。その後方に隣接して南温帯(STZ)の白斑(かつてのリング暗斑)が見 られます。BAに17°まで近づいていますが、間にある暗斑によってこれ以上の接 近が妨げられるかもしれません。BAの前方では、II=240°付近に長さ40°のSTB の暗部が存在しますが、これはSTBの小暗斑が発達したものです。暗部は後方ほ ど南に寄って、南南温帯縞(SSTB)に続いているように見えます。BA後方の暗部が 縮小したのを補完しているようで、興味深い変化です。

[図1] 北熱帯に出現した暗斑と南温帯縞の暗部
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)(拡大)


今シーズンは、木星を回るガリレオ衛星相互の掩蔽や食といった現象が観測され ています。木星自転軸の傾きが地球や太陽に対してほぼゼロとなる時に起こり、 6年ごとにしか見ることのできない珍しい現象です。5月以降、相当な回数起こる ことが予報されていますが、ガリレオ衛星は小さいので、観測するには30cmクラ スの望遠鏡と最良のシーイングが必要になると思われます。図2は永長英夫氏(兵 庫県)が捉えた、6月1日のガニメデによるエウロパの部分食の様子です。条件の 良い夏場に向けて、多くの観測が行われることを期待しましょう。

[図2] ガニメデによるエウロパの食
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)


土星

環の傾きは、5月半ばに-4.1°の極大となった後、減少に転じていますが、6月半 ばでまだ-3.7°と、はっきりわかるほどにはなっていません。当観測期間は、多 くの観測者が環の異様な暗さを指摘しています。これは、環の平面が地球よりも 太陽に先に近づいているためで、環の平面上で見た6月の太陽高度は1°を切って おり、環の平面には太陽光がほとんど当らない状態となっています。その上、地 球から見た環はまだ面積を持ったリング状なので、単位面積当りの環の明るさは 大変小さくなってしまうのです。今後、環の消失に向かって、さらに暗く見えづ らくなることが予想されます。

[図3] 土星の暗い環と南熱帯の白斑
撮像:Anthony Wesley氏(オーストラリア、33cm)


土星本体では、当観測期間も白斑が観測されています。赤道帯北部(EZn)の白斑 はまだ健在で、フランスのデルクロワ氏による6月11日の画像ではI=234°でした。 南熱帯(STrZ)の白斑も当観測期間も数名の観測者によって捉えられており、比較 的顕著だったようです。国内では、5月26日に小澤氏(東京都)によって、III=5° 付近で観測されています。

火星

4月と5月の間に、3人の観測者から7日間の観測報告が寄せられました。視直径は 4月末に4.6秒とまだまだ小さいですが、画像では模様がはっきりと捉えられてい ます。5月末のLsは270°で、南半球は夏至を迎えており、小さくなってきた南極 冠がはっきりと見られます。

前号でもお知らせしたとおり、火星ではダストストームの発生する季節を迎えて いますが、地球からはその様子をとらえることはできませんでした。6月も、ま だまだ視直径は大きくならないのですが、目の離せない時期になっています。

[図4] 2009年4月の火星
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)


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