当観測期間の木星面では、北赤道縞(NEB)の活動が注目されます。3月から観測さ
れているリフト領域(R1)に加えて、4月に形成された2つのリフト(R2、R3)が順調
に成長し、現在、木星面では3ヵ所で長さ50〜70°のリフト領域が見られます。
どれも活動的で、斜めに傾いた領域の内部は激しく乱れています。6月初めにお
けるR1〜R3の位置は、それぞれII=120°、II=350°、II=260°となっていて、R1
は体系IIに対して1日当り-3.5°で前進していますが、R2とR3は1日当り-4.5°と
大きな値となっています。また、東西に伸長し続けているため、R3の後端とR2の
前端はオーバーラップしつつあります。
一方、4月に小赤斑(LRS)と疑われる茶色い模様が観測された大赤斑(RS)の北側の
NEB北縁では、前述のリフト領域R1の通過に伴って、青みの強い大きな暗斑が出
現しました。この暗斑は極めて短期間で形成されたようで、5月28日にリフト領
域からベルト北縁に白雲が流れ出すと、わずか3日後の31日には、II=137.0°に
極めて暗い大型の暗斑が形成されてしまいました。6月に入ると、暗斑はNEBを離
れて北熱帯(NTrZ)を前進し始め、後方には別の暗斑が形成される兆候が見られま
す。英国天文協会(BAA)のロジャース氏は、細かったNEBが再び拡幅するきっかけ
となるのではないかと述べていて、今後どのように発達するか注目されます。
大赤斑はII=135.5°(5月31日)にあり、少し赤みが戻ったように思われます。5月
上旬に後端部のSEBで見られたこぶ状の盛り上がりは、大赤斑とSEBをつなぐブリ
ッジとなり、大赤斑前方には軽微なストリークも出現しましたが、本体には影響
なかったようです。
大赤斑前方の南赤道縞(SEB)は、幅広い南赤道縞帯(SEBZ)によって大きく二条に
分離していますが、大赤斑後方ではSEB南組織(SEBs)が厚く、SEBZは狭くなって
います。SEB南縁は概ね平坦で、ジェットストリームの活動は今のところ見られ
ません。
永続白斑BAはII=331.2°(6月8日)に進んでいます。高解像度の画像で見ると、内
部には複雑な濃淡と中心に白い核が見られますが、周囲とのコントラストは低く
なっています。後方にあった南温帯縞(STB)の暗部は、小さな暗斑に縮小してし
まいました。その後方に隣接して南温帯(STZ)の白斑(かつてのリング暗斑)が見
られます。BAに17°まで近づいていますが、間にある暗斑によってこれ以上の接
近が妨げられるかもしれません。BAの前方では、II=240°付近に長さ40°のSTB
の暗部が存在しますが、これはSTBの小暗斑が発達したものです。暗部は後方ほ
ど南に寄って、南南温帯縞(SSTB)に続いているように見えます。BA後方の暗部が
縮小したのを補完しているようで、興味深い変化です。
|
[図1] 北熱帯に出現した暗斑と南温帯縞の暗部 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)(拡大) |
|
|
|
今シーズンは、木星を回るガリレオ衛星相互の掩蔽や食といった現象が観測され
ています。木星自転軸の傾きが地球や太陽に対してほぼゼロとなる時に起こり、
6年ごとにしか見ることのできない珍しい現象です。5月以降、相当な回数起こる
ことが予報されていますが、ガリレオ衛星は小さいので、観測するには30cmクラ
スの望遠鏡と最良のシーイングが必要になると思われます。図2は永長英夫氏(兵
庫県)が捉えた、6月1日のガニメデによるエウロパの部分食の様子です。条件の
良い夏場に向けて、多くの観測が行われることを期待しましょう。
|
[図2] ガニメデによるエウロパの食 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射) |
|
|
|
|