先月号で速報したように、7月19日、木星面に小天体の衝突痕が出現しました。
1994年のシューメーカーレビー第9彗星(SL9)以来、15年ぶりのことです。発見者
はオーストラリアのアンソニー・ウェズリー(Anthony Wesley)氏で、衝突痕の出
現場所は、南緯56.8°、II=214.9°の南極地方(SPR)内部でした。英国天文協会
(BAA)のロジャース(Rogers)氏によるレポートなどを見ると、ウェズリー氏の19
日14時12分の画像で、すでに右リム上に衝突痕の暗部を認めることができます。
一方、その1自転前の7時41分の画像では何も存在しないので、衝突天体はこの6
時間半の間に木星に突入したことになります。衝突天体が彗星なのか、小惑星か
は今のところわかっていません。
衝突痕は21日以降、周囲の風によって、前方へ伸長を始め、東西に細長くなって
行きました。前端部分のドリフトは1日当り約-0.6°で、永続白斑よりも大きく
なっています。先端が南側にやや傾いたように見えますが、これは南緯60°付近
に東向きのジェットストリームが流れているため、衝突痕の南側ほど風が強くな
っているためです。7月末の高解像度の画像では、衝突痕の北側にも前方へ向か
う分枝が見られますが、こちらは、SPR北縁を流れる南緯52°のジェットストリ
ームの影響と思われます。一方、後端のドリフトは1日当り+0.4°で、ゆっくり
と後退しています。
8月の衝突痕はさらに伸長して、長さ30°くらいの暗帯になっていますが、前端
部は小さな断片に分解し、コントラストが低下したため、わかりづらくなってい
ます。一方、後端はII=226.2°(14日)にあり、明瞭なコア状の暗部が見られるの
で、こちらはまだ追跡できそうです。また、衝突痕から大赤斑付近までのSPR北
縁が濃くなっているのは、上記の衝突痕北側に伸びた分枝によるものと思われま
す。
|
[図1] 衝突痕の変化 撮像:Anthony Wesley氏(オーストラリア、30cm)、Christophe Pellier氏(フランス、25cm)、Antonello Medugno氏(イタリア、35cm)、Paulo Casquinha氏(ポルトガル、35cm)、Fabio Carvalho氏(ブラジル、25cm)、 米山誠一氏(神奈川県、20cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、安藤和典氏(京都府、35cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、Donald Parker(米国、40cm) |
|
|
|
大赤斑北側の北赤道縞(NEB)北縁では、ベルトの拡幅現象が進行中ですが、今月
はII=20°付近でも二次的な活動が始まったようです。この経度には元々顕著な
プロジェクション(projection)があったのですが、最初の拡幅域と同じように、
リフト領域R1が8月初めに通過すると同時に、北熱帯(NTrZ)に飛び出した大きな
暗斑に変化しました。おそらく、この経度でも今後NEBの拡幅が進行していくと
予想されます。
最初の拡幅領域では、当観測期間もベルトが北へ膨らんだ暗部と、前方の1〜2個
の暗斑で構成されていますが、活動の初期よりも暗斑の前進速度はかなり小さく
なりました。そのため、8月半ばでも活動範囲は40°程度に止まっています。
NEB内部では活発なリフト活動が続いていますが、R2とR3のリフト領域は崩れて
まとまりがなくなってしまい、最初に形成されたR1だけが、II=280〜0°の範囲
ではっきりとしたリフト領域として見られます。
|
[図2] 大赤斑とNEBの拡幅域 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射) |
|
|
|
|