天文ガイド 惑星の近況 2009年11月号 (No.116)
堀川邦昭、安達誠

木星は衝を過ぎたばかりで、観測の好機にあります。8月後半は天候が回復し、 夏の好シーイングの下、多くの良像が報告されています。土星は4日に環の平面 が地球を通過しましたが、合が17日に迫っているため、十分な観測はありません でした。火星はまだ遠いですが、ダストストームの活動が捉えられています。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

7月に出現した衝突痕は拡散が進んで、原形を留めないほど東西に長くなってし まいました。8月中に見られたII=220°付近の暗部は拡散消失してしまい、9月は II=200°付近の小さな暗塊が新しい後端となっています。長く伸びた前端部は、 どこまで達しているかわかりませんが、大赤斑付近まで南極地方(SPR)の北縁が 濃くなっているのは、衝突痕の影響でしょう。面白いことに、衝突痕は東西のリ ム近くで明瞭に見え、中央付近では逆に見えづらくなります。この傾向は、15年 前のシューメーカーレビー第9彗星(SL9)の衝突痕でも見られた特徴で、衝突痕の 黒い粒子が木星大気の高い所にあることを示しています。

[図1] 拡散する衝突痕
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm) 永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)


当観測期間の木星面で注目されるのは、北赤道縞(NEB)の活動です。北縁ではベ ルトが北側へ広がる拡幅現象が進行中ですし、ベルト内部では活発なリフト活動 が続いています。

8月に活動が始まった第2の拡幅活動は、最初の拡幅域と同じ経過をたどりながら 発達しています。最初にII=20°付近に出現した暗斑は前進しながら発達し、大 きなリング状の模様となって注目されました。この暗斑はその後崩れてしまいま したが、9月はその前方に出現したII=350°付近の暗斑からII=30°の間で、最初 の拡幅領域とよく似た活動域が形成されています。

大赤斑北側の最初の拡幅領域は、現在もベルトの大きな膨らみと、その前方の 1〜2個の暗斑で構成されていますが、活動の初期と異なり、暗斑はほとんど動い ていないため、活動範囲は40°程度に止まっています。後方から北熱帯(NTrZ)の 長命な白斑WSZが接近していましたが、拡幅域の手前で、減速し止まってしまっ たようです。2つの拡幅領域では、新しいNEB北縁になると思われる淡いストリー クが形成されています。今後も、同様の短い拡幅域が複数出現することで、NEB 全体の拡幅が進行すると予想されます。

ベルト内部に出現した3つのリフト領域は、最初に形成されたR1が相変わらず活 動的で、長さ120°もある乱れた明帯として観測されています。残りの2つは消失 してしまったようですが、II=310°付近(9月10日)に短いリフトが新たに出現し ています。

少しずつ淡化しつつある南赤道縞(SEB)では、北組織がすでにかなり淡くなって います。南組織も大赤斑前方では痩せて細くなり、後方でも3ヵ所でバージのよ うな暗部が明瞭になってきているので、周囲は相対的に淡化していると思われま す。明るく幅広い南赤道縞帯(SEBZ)には北寄りに青くよじれた組織が見られます が、ベルト全体は大変静かで、活動的なNEBとは対照的な様相です。

大赤斑はII=138.1°(9月10日)にあり、ゆっくりと後退を続けています。濃度も 赤みもそれほどではありませんが、周囲の南熱帯(STrZ)が明るいため、よく目立 っています。一方、II=295.8°(9月6日)に位置する永続白斑BAは、高解像度の画 像でこそ明瞭ですが、普通の条件では不明瞭で、むしろ後方にある南温帯縞 (STB)の名残の暗斑の方が目立ちます。大赤斑とBAの間に横たわっている長いSTB の断片は、今年新しく形成された模様ですが、すでに長さ80°に及ぶ、後方が南 へ傾いたベルトに成長しています。

北半球では、北温帯縞(NTB)が顕著ですが、オレンジ色の南組織は淡化し始めて いるようです。一方、北組織から北温帯(NTZ)には不規則な暗部が見られます。 これらは北温帯流-A(NT Current-A)に乗って、約+1°/日で後退しています。

[図2] 最近の木星面
左)NEBの新しい拡幅領域 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm反射)
右)大赤斑とガニメデの影 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射)


火星

8月に入り、火星のLsは310°を越えました。北半球の季節では冬至と春分の中間 点まで来ました。極冠の姿は見えなくなり、替わって両極地方が雲に覆われ、フ ードと呼ばれる明るい姿を見ることが出来るようになりました。視直径は5秒を 越え、肉眼でも模様や両極地方の雲が観測できるようになりました。フードは、 北半球の方が明るく観測されました。

[図3] 北極地方の明るい雲
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)


8月9日のイギリスのピーチ氏(Peach)の画像では、北極フードがはっきりと写っ ており、北極冠形成前の状態を非常に良く示しています。

8月18日、フランスのマクシモヴィッチ氏(Maksymowicz)が、ヘラス(295W, -50) の東側が明るくなっている様子を報告しました。画像では翌19日と20日にその様 子が記録されました。

次いで、8月22日にはベラルーシのゴーリャチコ(Goryachko)とモロゾフ (Morozov)の二人が、アマゾニス(155W, +15)一帯が広範囲に明るくなって、ダス トストームが発生している様子を報告しています。アマゾニス付近での発生は、 ここしばらくなかったことで、珍しい現象でした。全体として観測数が少なく、 詳しく追跡できませんでしたが、相次いでの発生とあって、興味深い観測となり ました。

一方、アスクラエウス(105W, +20)山には山岳雲が出ているようで、夕方のター ミネーターではアスクラエウス山(105W, +20)には、雲のかかっている様子が観 測されました。

[図4] ヘラスのダストストーム(矢印付近)
スタニスラス・マクシモヴィッチ氏(フランス、15cm反射)のスケッチ


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