7月に出現した衝突痕は拡散が進んで、原形を留めないほど東西に長くなってし
まいました。8月中に見られたII=220°付近の暗部は拡散消失してしまい、9月は
II=200°付近の小さな暗塊が新しい後端となっています。長く伸びた前端部は、
どこまで達しているかわかりませんが、大赤斑付近まで南極地方(SPR)の北縁が
濃くなっているのは、衝突痕の影響でしょう。面白いことに、衝突痕は東西のリ
ム近くで明瞭に見え、中央付近では逆に見えづらくなります。この傾向は、15年
前のシューメーカーレビー第9彗星(SL9)の衝突痕でも見られた特徴で、衝突痕の
黒い粒子が木星大気の高い所にあることを示しています。
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[図1] 拡散する衝突痕 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm) 永長英夫氏(兵庫県、30cm反射) |
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当観測期間の木星面で注目されるのは、北赤道縞(NEB)の活動です。北縁ではベ
ルトが北側へ広がる拡幅現象が進行中ですし、ベルト内部では活発なリフト活動
が続いています。
8月に活動が始まった第2の拡幅活動は、最初の拡幅域と同じ経過をたどりながら
発達しています。最初にII=20°付近に出現した暗斑は前進しながら発達し、大
きなリング状の模様となって注目されました。この暗斑はその後崩れてしまいま
したが、9月はその前方に出現したII=350°付近の暗斑からII=30°の間で、最初
の拡幅領域とよく似た活動域が形成されています。
大赤斑北側の最初の拡幅領域は、現在もベルトの大きな膨らみと、その前方の
1〜2個の暗斑で構成されていますが、活動の初期と異なり、暗斑はほとんど動い
ていないため、活動範囲は40°程度に止まっています。後方から北熱帯(NTrZ)の
長命な白斑WSZが接近していましたが、拡幅域の手前で、減速し止まってしまっ
たようです。2つの拡幅領域では、新しいNEB北縁になると思われる淡いストリー
クが形成されています。今後も、同様の短い拡幅域が複数出現することで、NEB
全体の拡幅が進行すると予想されます。
ベルト内部に出現した3つのリフト領域は、最初に形成されたR1が相変わらず活
動的で、長さ120°もある乱れた明帯として観測されています。残りの2つは消失
してしまったようですが、II=310°付近(9月10日)に短いリフトが新たに出現し
ています。
少しずつ淡化しつつある南赤道縞(SEB)では、北組織がすでにかなり淡くなって
います。南組織も大赤斑前方では痩せて細くなり、後方でも3ヵ所でバージのよ
うな暗部が明瞭になってきているので、周囲は相対的に淡化していると思われま
す。明るく幅広い南赤道縞帯(SEBZ)には北寄りに青くよじれた組織が見られます
が、ベルト全体は大変静かで、活動的なNEBとは対照的な様相です。
大赤斑はII=138.1°(9月10日)にあり、ゆっくりと後退を続けています。濃度も
赤みもそれほどではありませんが、周囲の南熱帯(STrZ)が明るいため、よく目立
っています。一方、II=295.8°(9月6日)に位置する永続白斑BAは、高解像度の画
像でこそ明瞭ですが、普通の条件では不明瞭で、むしろ後方にある南温帯縞
(STB)の名残の暗斑の方が目立ちます。大赤斑とBAの間に横たわっている長いSTB
の断片は、今年新しく形成された模様ですが、すでに長さ80°に及ぶ、後方が南
へ傾いたベルトに成長しています。
北半球では、北温帯縞(NTB)が顕著ですが、オレンジ色の南組織は淡化し始めて
いるようです。一方、北組織から北温帯(NTZ)には不規則な暗部が見られます。
これらは北温帯流-A(NT Current-A)に乗って、約+1°/日で後退しています。
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[図2] 最近の木星面 左)NEBの新しい拡幅領域 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm反射) 右)大赤斑とガニメデの影 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射) |
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