天文ガイド 惑星の近況 2010年1月号 (No.118)
堀川邦昭、安達誠

木星と火星が相次いで東矩と西矩を迎えました。天球上でちょうど半周離れてい ることになります。木星が夕暮れの空に移る一方、火星は夜半前に東天に昇るよ うになり、夜空の主役が交代する時期が近づいています。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑湾(RS bay)の北縁に出現した白斑は、当観測期間も明るい領域として観測 されています。発生当初はRS bay内部の明部でしたが、南赤道縞(SEB)との境界 を越えてベルト内部へ侵入し、明るい白斑になるとともに、SEB北組織(SEBn)に 沿って明帯と青みの強い暗部が前方へ発達しました。また、白斑はメタンバンド で明るく(メタンブライト)、高い雲であることが示唆されました。

今シーズンのSEBは徐々に淡化しつつあります。一方、メタンブライトな白斑は、 SEB攪乱やmid-SEB outbreakの初期に観測され、SEBに乱れた領域を作ります。今 回の白斑によって、再びSEBが活動的なベルトに戻るのではと心配されましたが、 ひと月以上経過してもSEBは静かなままです。この白斑は対流性の渦ではなく、 RS bay起源の別なタイプの現象なのでしょう。

英国天文協会(BAA)のロジャース(Rogers)氏は、SEB南縁(SEBs)からRS bayに侵入 した暗斑が、今回の白斑の位置でSEBに入り込んだ例があることや、1989年や 1992-93年にSEBが淡化した際にも、RS bay前方のSEBnに青い暗部が出現したこと から、今回の現象はSEB淡化の一過程であろうと述べています。筆者の経験では、 過去3回のSEB淡化は常に大赤斑(RS)前方で始まりましたし、SEBnの暗部もしばし ば現れました。そのため、今回の白斑はSEBを淡化させる白雲の湧き出し口のよ うなものではないかと思っています。

11月中旬のこの領域は、RS bayの左下がリフトのように大きく口を開け、前方の SEBZと白雲でつながって見えるものの、メタンブライトな領域は見られなくなっ ています。SEB淡化の進行には波があるのかもしれません。

RSは輪郭が明瞭になり、赤みも増しています。以前に比べてSEBとの濃度関係は 逆転してしまいました。経度はII=142.1°(10月26日)で、ゆっくりとした後退を 続けています。

RS後方のSEB南組織(SEBs)にあるバージは、周囲のベルトが淡化するに従って顕 著さを増しています。そのうち最も大きく濃いRS直後にあるものは、RSに接近し つつあり、11月半ばにはRS bayに沿って北へ移動し始めています。今後、RS bay 北側を通過して、どのような変化を見せるか注目されます。

BAは周囲よりも薄暗く、通常の解像度では暗斑のように見えます。11月には後方 から南温帯縞(STB)暗部の名残(STB Remnant)が接近し、BA直後にあるSTBの暗斑 との間が白斑状に明るくなっています。この影響で、SEBの暗斑は変形して小さ くなり、暗斑の右肩にあった小白斑(昨シーズン見られた目玉暗斑の名残)は、BA 側に押し出されつつあります。間もなく、BAと合体するかもしれません。

今シーズン新たに形成されたSTBの傾いた暗部は、前端部がRSの南を通過中です。 これに伴い、前方のSTB北組織(STBn)に沿って小さな暗斑が多数出現しており、 おそらくジェットストリーム暗斑と思われます。

北赤道縞(NEB)は、北縁で続いていた拡幅活動が木星面全周に及び、激しい活動 は一段落したようです。ベルト内部で続いていたリフト活動も収まりつつあるよ うで、長大なリフト領域だったR1は、明部が断片的に残るだけとなり、9月に形 成されたリフトも目立たなくなってしまいました。

[図1] 大赤斑周辺とBA付近の変化
左) 顕著な大赤斑とRS bay北縁の白斑 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)
右) 薄暗いBA(STBの暗斑の直前)、後方にはSTB Remnantと白斑状の明部
撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射)


火星

火星は夜半前に地平線から姿を現すようになりました。これからは早朝ではなく、 深夜の観測対象となり、観測活動は非常に厳しい時期になります。一方、視直径 は6秒台から7秒台となり、模様の鮮明な報告が増えてきました。

火星のLsは、350〜0°と、春分(北半球)に差し掛かっています。この時期で最も 気になるのは、いつごろから北極冠が見えてくるかということです。2002年にマ ーズ・グローバル・サーベイヤーが北極冠の形成過程を撮影しています。そのと きの画像によれば、北極冠は中央からできるのではなく、周縁部から形成される ことが明らかにされています。そこで、北極冠周縁部の観測に注意を払いました (図2)。

[図2] 北極冠の形成
極点が暗いのは、極冠がリング状に形成されるため。
撮像:ジャンジャック・プポー氏 (フランス、35cm反射)


北極冠かどうかは、赤や赤外画像ではっきりします。北極冠の場合、地表に氷な どの固体ができた状態になるため、これらの波長では白い模様として記録される のです。この白いものが全周で一様に見えたときに、北極冠ができたと考えます。 こういった観点で見ると10月15日あたりに、それらしき画像が報告されてきてい ます。北極はまだ広い範囲でフードと呼ばれる雲に覆われ、北極冠が完全に晴れ た状態に見えるのは、Ls=20°位ですから、12月の上旬が一つの目安となるでし ょう。

ダストストームは、10月は発生しませんでした。そのため10月は穏やかな火星面 が見られました。10月29日には柚木氏が、低緯度地方にでる、氷晶雲を青画像で 記録しています。氷晶雲は、オーロラ湾付近やシルチス付近でよく記録されます が、今回は前者で記録されました。

[図3] ソリス(太陽湖)付近のスケッチ
観測:横倉敏雄氏 (茨城県、40cm反射)


[図4] 赤道地方の氷晶雲
青画像で赤道を広く覆う氷晶雲が記録されている。
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm反射)


土星

土星は日出時の高度が30°を超えましたが、なぜか観測数は伸び悩んでいます。 おそらく、火星が西矩を過ぎて、観測時間帯が早くなった影響でしょう。

環の傾きは+3°を超え、どの画像でも北側に開いた環を明瞭に見ることができま す。一方、本体では明るい赤道帯(EZ)を挟んで、南赤道縞(SEB)がエッジの明瞭 な目立つベルトであるのに対して、北赤道縞(NEB)は淡く拡散しているのが注目 されます。

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