大赤斑湾(RS bay)の北縁に出現した白斑は、当観測期間も明るい領域として観測
されています。発生当初はRS bay内部の明部でしたが、南赤道縞(SEB)との境界
を越えてベルト内部へ侵入し、明るい白斑になるとともに、SEB北組織(SEBn)に
沿って明帯と青みの強い暗部が前方へ発達しました。また、白斑はメタンバンド
で明るく(メタンブライト)、高い雲であることが示唆されました。
今シーズンのSEBは徐々に淡化しつつあります。一方、メタンブライトな白斑は、
SEB攪乱やmid-SEB outbreakの初期に観測され、SEBに乱れた領域を作ります。今
回の白斑によって、再びSEBが活動的なベルトに戻るのではと心配されましたが、
ひと月以上経過してもSEBは静かなままです。この白斑は対流性の渦ではなく、
RS bay起源の別なタイプの現象なのでしょう。
英国天文協会(BAA)のロジャース(Rogers)氏は、SEB南縁(SEBs)からRS bayに侵入
した暗斑が、今回の白斑の位置でSEBに入り込んだ例があることや、1989年や
1992-93年にSEBが淡化した際にも、RS bay前方のSEBnに青い暗部が出現したこと
から、今回の現象はSEB淡化の一過程であろうと述べています。筆者の経験では、
過去3回のSEB淡化は常に大赤斑(RS)前方で始まりましたし、SEBnの暗部もしばし
ば現れました。そのため、今回の白斑はSEBを淡化させる白雲の湧き出し口のよ
うなものではないかと思っています。
11月中旬のこの領域は、RS bayの左下がリフトのように大きく口を開け、前方の
SEBZと白雲でつながって見えるものの、メタンブライトな領域は見られなくなっ
ています。SEB淡化の進行には波があるのかもしれません。
RSは輪郭が明瞭になり、赤みも増しています。以前に比べてSEBとの濃度関係は
逆転してしまいました。経度はII=142.1°(10月26日)で、ゆっくりとした後退を
続けています。
RS後方のSEB南組織(SEBs)にあるバージは、周囲のベルトが淡化するに従って顕
著さを増しています。そのうち最も大きく濃いRS直後にあるものは、RSに接近し
つつあり、11月半ばにはRS bayに沿って北へ移動し始めています。今後、RS bay
北側を通過して、どのような変化を見せるか注目されます。
BAは周囲よりも薄暗く、通常の解像度では暗斑のように見えます。11月には後方
から南温帯縞(STB)暗部の名残(STB Remnant)が接近し、BA直後にあるSTBの暗斑
との間が白斑状に明るくなっています。この影響で、SEBの暗斑は変形して小さ
くなり、暗斑の右肩にあった小白斑(昨シーズン見られた目玉暗斑の名残)は、BA
側に押し出されつつあります。間もなく、BAと合体するかもしれません。
今シーズン新たに形成されたSTBの傾いた暗部は、前端部がRSの南を通過中です。
これに伴い、前方のSTB北組織(STBn)に沿って小さな暗斑が多数出現しており、
おそらくジェットストリーム暗斑と思われます。
北赤道縞(NEB)は、北縁で続いていた拡幅活動が木星面全周に及び、激しい活動
は一段落したようです。ベルト内部で続いていたリフト活動も収まりつつあるよ
うで、長大なリフト領域だったR1は、明部が断片的に残るだけとなり、9月に形
成されたリフトも目立たなくなってしまいました。
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[図1] 大赤斑周辺とBA付近の変化 左) 顕著な大赤斑とRS bay北縁の白斑 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射) 右) 薄暗いBA(STBの暗斑の直前)、後方にはSTB Remnantと白斑状の明部 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射) |
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