当観測期間におけるLsは30°前後で、北半球では晩春を迎えています。北極冠は
少しずつ小さくなり、火星表面の高地では山岳雲が発生します。また、低緯度地
方には氷晶雲が広がる季節となり、観測のたびにあちらこちらに雲が観測されま
した。
図1では4方向に白い部分がありますが、これらの雲は画像だけでなく、肉眼でも
わかります。火星像の朝側(右)に見えているのは朝霧です。自転とともに次第に
消えていきますので、長時間観測すると霧であることが分かります。一方、山岳
雲は、火星面の正午までははっきりしませんが、正午を回ると見え始め、図1の
ように、日没直前にはかなり顕著になります。これらの東西の雲を時間をかけて
観測し、アニメーションを作成すると、変化が手に取るようにわかります。
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[図1] 火星面に広がる明るい雲 明るい部分のうち、下は北極冠、左はアルバの山岳雲、上は南極雲、右は朝霧。 撮像:山崎明宏氏(東京、20cm) |
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山岳雲の顕著な場所は全面で6山あり、経度順にアスクラエウス(105W, +20)・パ
ボニス(110W, +10)・アルバ(115W, +45)・アルシアシルバ(125W, -4)・オリンピ
ア(135W, +25)・エリシウム(215W, +23)となっています。雲の発生は、山の高さ
と大気中の水蒸気量によって異なりますから、雲の観測は火星の大気の状態を判
断する良い指標となります。同じ太陽高度での雲の様子を比較し、雲の濃さや雲
の流されている方向などが読み取れることになります。大気の運動はダストスト
ームの移動ではっきり見えてきますが、山岳雲の流れる方向も参考になります。
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[図2] 火星の山岳雲 左に3つ並んだ雲はタルシス3山、中央に近いものはオリンピア山、一番 下の雲はアルバ火山。いずれも顕著に見られる。 撮像:エミル・クラーイカンプ氏(オランダ、25cm) |
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少しずつ小さくなってきた北極冠には、縁に白く明るい部分が見えてきています。
南極冠でも同じことが起こりますが、縮小を始めると極冠の周辺部に非常に明る
い部分が発生します。太陽光を反射して明るくなることから、表面が一様に平ら
な部分だと考えられます。どの位置に見えているか、経緯度を測定して位置を確
定する作業を行っています。
また、この時期の北極冠にはドーナツ状の溝が見られます。日本の気流ではなか
なか鮮明な姿を得られませんが、これは北極冠のさけめではなく、極付近を取り
巻く暗いドーナツ状の模様が、薄くなった北極冠を通して見えているものと考え
られます。この時期、極冠の中間部分は、ドーナツ状に淡くなっていますが、ど
の程度表面の模様が見えるかにも注意を払いたいものです。
極冠の中央部分は永久北極冠ができる場所になりますが、極付近にしばしば発生
するダストストームによって、この部分が黄色くなってしまうこともよく見られ
る現象です。これらの極冠の様子は、撮像時に適正露出にしないと写りませんか
ら、撮像観測をされている方は、表面の模様だけでなく極冠に露出をあわせた撮
像を心掛けていただきたいと思います。
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[図3] 北極冠の様子 北極冠の中に細く黒いリングが記録されている。 撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm) |
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