北極冠とダストストーム
火星では北極冠に注目が集まっています。極冠が縮小する際には、周辺の二酸化
炭素や水が昇華してできる、極から赤道に向かう気流によって、ダストストーム
(砂嵐)が発生します。南極冠より北極冠の方が顕著で、「北極冠エッジダストス
トーム」と呼ばれます。コリオリ力によってカーブを描いた姿は、あたかも巨大
な寒冷前線のようです。北極冠の表面のリンクル(しわ状の地形)は、ダストスト
ームの風と同じ方向を向いていて、何か関係がありそうです。昔から、北極冠は
南極冠より黄色く見えることが知られていますが、これは北極冠ダストストーム
の影響のようです。
昨年12月20日、プエルトリコのリベラ氏(Efrain Morales Rivera)は、西経170°
の北極冠に大きな明斑を捉えました(図1)。前例のない画像で確認に時間がかか
りましたが、これは北極冠エッジダストストームであることが判明しました。ダ
ストストームはその後も繰り返し発生しており、MROの画像でも見ることができ
ます。発生場所は主に0°付近と260°付近の2ヵ所で、0°付近では1月26日に出
現し、3日後には南側に拡散している様子が観測されました。さらにその3日後に
は再び0°付近から発生し、南に延びて拡大する様子が5日間に渡って記録されて
います。このダストストームは、アメリカやヨーロッパで観測条件がよく、フラ
ンスのピック・ドゥ・ミディ天文台ではすばらしい画像が得られています(図2)。
260°付近に発生したものは、国内でも観測されましたが、残念なことに気流状
態が悪く、拡散の様子を詳しくつかむことはできませんでした。
極付近の変化は大変重要です。極冠の明るさを抑えたものを並べるなど、画像を
報告する際はひと工夫加えたいものです。
ブルークリアリング
土星では衝の前後に環がひと際明るくなる「衝効果」が有名ですが、火星では
「ブルークリアリング」という現象が起こります。火星表面は450nm以下の短い
波長では、すべてが同じ明るさとなり、表面模様が見られなくなります。ところ
が、衝の前後だけ地表の模様が見えるときがあり、ブルークリアリングと呼ばれ
ます。今シーズンはそれらしい画像が得られませんでしたが、ようやく捉えるこ
とができました(図2)。模様の見え方は、接近時の火星の季節によって異なって
いて、今回の接近では、非常に淡かったようです。
山岳雲や氷晶雲
北極冠が縮小していく時期、有名なオリンピア山やタルシス3山などの大きな成
層火山では、しばしば山岳雲が発達します。火星の午後になると、次第に雲が増
え、夕方日没直前は非常に明るくなります。この様子は、眼視でも観測すること
ができます。今シーズンはそれらに加えて、アルバ(115W, +45)や、その付近の
高地にも山岳雲が発生し、大変面白い姿が見られました(図3)。
低緯度地方を東西に、まるで火星の腹巻のように淡い雲が覆う、氷晶雲も観測さ
れています。ブルーの画像で、低緯度地方が幅広く東西に明るくなっているもの
がそれにあたります。ただし、どのような高度で発生しているのかは、はっきり
していません。
|
[図1] 北極冠エッジダストストーム 左)撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルトリコ、30cm) 右)撮像:ピック・ドゥ・ミディ天文台 |
|
|
|
|
[図2] ブルークリアリング 右の青色光画像でも、メリディアニなどの模様が認められる。 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm) |
|
|
|
|
[図3] タルシスやアルバの山岳雲 撮像:トルステン・ハンセン氏(ドイツ、20cm) |
|
|
|
|