天文ガイド 惑星の近況 2010年4月号 (No.121)
安達誠、堀川邦昭

火星が1月31日にかに座で衝を迎えました。日没後すぐに東天に顔を出すので、 たくさんの方々が火星に望遠鏡を向けていることでしょう。木星は2009-10年の 観測シーズンが終了しました。土星は少し観測が増えてきましたが、普段の年に 比べるとまだまだです。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

北極冠とダストストーム

火星では北極冠に注目が集まっています。極冠が縮小する際には、周辺の二酸化 炭素や水が昇華してできる、極から赤道に向かう気流によって、ダストストーム (砂嵐)が発生します。南極冠より北極冠の方が顕著で、「北極冠エッジダストス トーム」と呼ばれます。コリオリ力によってカーブを描いた姿は、あたかも巨大 な寒冷前線のようです。北極冠の表面のリンクル(しわ状の地形)は、ダストスト ームの風と同じ方向を向いていて、何か関係がありそうです。昔から、北極冠は 南極冠より黄色く見えることが知られていますが、これは北極冠ダストストーム の影響のようです。

昨年12月20日、プエルトリコのリベラ氏(Efrain Morales Rivera)は、西経170° の北極冠に大きな明斑を捉えました(図1)。前例のない画像で確認に時間がかか りましたが、これは北極冠エッジダストストームであることが判明しました。ダ ストストームはその後も繰り返し発生しており、MROの画像でも見ることができ ます。発生場所は主に0°付近と260°付近の2ヵ所で、0°付近では1月26日に出 現し、3日後には南側に拡散している様子が観測されました。さらにその3日後に は再び0°付近から発生し、南に延びて拡大する様子が5日間に渡って記録されて います。このダストストームは、アメリカやヨーロッパで観測条件がよく、フラ ンスのピック・ドゥ・ミディ天文台ではすばらしい画像が得られています(図2)。 260°付近に発生したものは、国内でも観測されましたが、残念なことに気流状 態が悪く、拡散の様子を詳しくつかむことはできませんでした。

極付近の変化は大変重要です。極冠の明るさを抑えたものを並べるなど、画像を 報告する際はひと工夫加えたいものです。

ブルークリアリング

土星では衝の前後に環がひと際明るくなる「衝効果」が有名ですが、火星では 「ブルークリアリング」という現象が起こります。火星表面は450nm以下の短い 波長では、すべてが同じ明るさとなり、表面模様が見られなくなります。ところ が、衝の前後だけ地表の模様が見えるときがあり、ブルークリアリングと呼ばれ ます。今シーズンはそれらしい画像が得られませんでしたが、ようやく捉えるこ とができました(図2)。模様の見え方は、接近時の火星の季節によって異なって いて、今回の接近では、非常に淡かったようです。

山岳雲や氷晶雲

北極冠が縮小していく時期、有名なオリンピア山やタルシス3山などの大きな成 層火山では、しばしば山岳雲が発達します。火星の午後になると、次第に雲が増 え、夕方日没直前は非常に明るくなります。この様子は、眼視でも観測すること ができます。今シーズンはそれらに加えて、アルバ(115W, +45)や、その付近の 高地にも山岳雲が発生し、大変面白い姿が見られました(図3)。

低緯度地方を東西に、まるで火星の腹巻のように淡い雲が覆う、氷晶雲も観測さ れています。ブルーの画像で、低緯度地方が幅広く東西に明るくなっているもの がそれにあたります。ただし、どのような高度で発生しているのかは、はっきり していません。

[図1] 北極冠エッジダストストーム
左)撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルトリコ、30cm)
右)撮像:ピック・ドゥ・ミディ天文台


[図2] ブルークリアリング
右の青色光画像でも、メリディアニなどの模様が認められる。
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


[図3] タルシスやアルバの山岳雲
撮像:トルステン・ハンセン氏(ドイツ、20cm)


木星

今シーズン最後の画像が、阿久津氏(6日)と永長氏(7日)から報告されています。 特に永長氏の画像は、木星の地平高度がわずか5°しかありません。

木星面では南赤道縞(SEB)が淡化して、次の南赤道縞攪乱(SEB Disturbance)を警 戒する段階となっています。阿久津氏の画像を見ると、以前は明瞭だった北組織 (SEBn)も淡く、さらに淡化が進んだようです。また、灰色のSEBnに対して南組織 (SEBs)は淡く赤みを帯びていて、色の違いが鮮明です。

2月28日の合を過ぎたら、早く観測を再開したいところですが、春は地平と黄道 の角度が小さい上に、夜明けが早くなるため、日出時における木星高度はなかな か大きくなりません。日の出時に10°を超えるのは、合からひと月経過した3月 末になってからです。合の間に攪乱が起こらないよう、神様に祈るしかないよう です。

[図4] 今シーズン最後の木星
撮像:阿久津富夫氏 (フィリピン、35cm)


土星

環の傾きは年初に-4.1°と、今シーズンの極大となりました。当観測期間もほと んど変わらず、細いながらも土星らしい姿が戻ってきました。

土星本体では、以前よりもベルトのコントラストが低いことを数名の観測者が指 摘しています。南北を比べると、南赤道縞(SEB)の方が明瞭ですが、南半分が淡 化したようで、ベルトが細くなっています。一方、北赤道縞(NEB)は淡く拡散し て北縁がどこにあるか判別が難しくなっています。

[図4] 最近の土星面
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


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