天文ガイド 惑星の近況 2010年7月号 (No.124)
堀川邦昭、安達誠

木星は合から2ヵ月半が経過し、日の出時の高度が30°を超えました。報告数も 増え、木星面の状況が詳しくわかるようになっています。衝を過ぎたばかりの土 星はまだ観測の好機にあります。火星は、かに座からしし座に移動しました。視 直径は6秒台と小さくなっていますが、熱心な観測者から報告が届いています。

ここでは4月後半から5月前半の惑星面についてまとめます。なお、この記事中の 日時はすべて世界時(UT)です。

木星

5月に入り木星面全周の様子がつかめるようになりましたが、警戒されている南 赤道縞攪乱(SEB Disturbance)は、まだ発生していません。ひと安心です。昨シ ーズン末の南赤道縞(SEB)は北組織(SEBn)が濃く残っていましたが、現在では南 北両組織とも淡くなっています。SEBnの方がやや明瞭で、条件が悪いと灰色の薄 暗い帯として見られ、南組織(SEBs)は極めて淡くなったものの赤みが残り、色調 の差で識別することができます。

[図1] この1年間における木星面の変化
SEBが淡化しNEBが幅広くなった、大赤斑の濃度と赤みの変化にも注目。
2画像をベルトの位置や太さがわかりやすいように合成した。
撮像:クリストファー・ゴー氏 (フィリピン、28cm)


大赤斑(GRS)は周囲に暗い模様がなくなって、広大な明るい領域に浮かぶ赤色斑 点として大変顕著です。画像で見ると北赤道縞(NEB)に匹敵する濃さですが、眼 視では赤みはあるものの、それほど濃く感じられません。昔から大赤斑は濃くな ると経度増加方向への動きが強まると言われていますが、それを裏付けるかのよ うに昨年末よりも5°前後も後退して、II=150°近くに達しています。大赤斑の 前側には、昨年秋に話題になった赤斑湾(RS bay)の前端部分が青い突起として見 られます。大赤斑の後方20°には昨年顕著だったSEBsのバージ(barge)が残って いますが、淡化が進んで消失しかかっています。

NEBは拡幅活動が完了し、ベルトが幅広く赤みが強くなっています。ベルト内部 には長さ数十度のリフト領域が数ヵ所で見られ、活動的です。II=110°付近の NEB北縁に見られる明瞭な白斑は、1997年から12年以上も存在し続けているWSZと 呼ばれる長命な高気圧的白斑で、昨シーズンは北熱帯(NTrZ)に露出していました が、今シーズンはNEBに半分埋もれたノッチ(notch)状に見えています。赤道帯 (EZ)は相変わらず明るく、フェストゥーン(festoon)はほとんどありません。解 像度の高い画像では、青く乱れたフィラメント模様で満たされています。

南半球で最も目立つベルトは南南温帯縞(SSTB)で、濃淡に富んでいます。ベルト 内部には、今シーズンも8個の高気圧的小白斑(AWO)が確認できます。南温帯縞 (STB)はII=20〜70°の範囲で不規則なベルトの断片が存在し、他は北組織(STBn) が残るだけですが、今シーズンは比較的明瞭です。永続白斑BAの赤みが数年ぶり に強くなっています。BA直後の暗斑は消失してしまい、高解像度の画像で見るBA は孤立した赤い「暗斑」です。経度はII=200°付近と大赤斑に近づきつつあり、 後方には南熱帯(STZ)の小白斑が健在です。

[図2] 赤い「暗斑」になったBA
撮像:阿久津富夫氏 (フィリピン、35cm)


NEBの北側では、北温帯縞(NTB)が濃く明瞭で、北北温帯縞(NNTB)は濃淡が多く乱 れています。その間の北温帯(NTZ)はやや薄暗く、昨シーズンの活動の名残と思 われる暗斑や暗い領域が残っています。

土星

3月に出現した顕著だった南熱帯(STrZ)の白斑は、4月後半になると経度方向に拡 散し始め、4月末から5月初めにかけては長さ25°以上の白い帯となって、そのま ま消失するのではないかと思われました。しかし、5月9日以降は、再び凝集して 明るい白斑として見えています。拡散前、III=15°付近にあった白斑は、再凝集 後はIII=40°付近へとジャンプしているので、白斑は後方に向かって拡散し、そ の後端部分で再凝集したことがわかります。

[図3] 東西に拡散した南熱帯の白斑
左上の輝点はタイタン
撮像:クリストファー・ゴー氏 (フィリピン、28cm)


土星面では南赤道縞(SEB)がやや細くなったものの、赤みの強いベルトとして目 立っています。一方、淡くくすんだ緑色をした北赤道縞(NEB)は、大きく拡散し て、ベルトとは言い難い様相となっています。また、解像度の高い画像では、南 北の高緯度にも繊細で美しい色調の縞模様が見られます。

環の傾きは5月後半に+1.7°まで小さくなり、今シーズンの極小を迎えます。細 い環を楽しむのは、これが最後の機会でしょう。

火星

火星の季節を表すLsは5月10日に89°となり、北半球は夏至を迎えました。北極 冠はかなり小さくなっていますが、Deが+20°近くあり、北半球がこちらを向い ているため、北極冠は見やすくなっています。残念なことに、日本は相変わらず シーイングが悪く、細部まで記録できる画像が得られませんでした。

4月14日にイギリスのダミアン・ピーチ(Damian Peach)氏が、北極冠の南側 (W270°)に小さな雲のような白い模様の出現を捉え注目されました。17日には顕 著になり、他のヨーロッパの観測者もその様子を記録しています。この雲のよう な模様は次第に移動しながら拡散し、5月6日にはW220°付近に達しました。

[図4] 北極冠の左に出現した白雲
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)


最近の目立つ特徴は低緯度地方の氷晶雲で、今月も活発に活動しています。ニリ アカスラクス(30W, +30)やオーロラシヌス(50W, -10)のような目だった暗色模様 が淡くなり、眼視でも雲の存在が確認できるようになっています。

[図5] 明暗境界線付近の氷晶雲
撮像:池村俊彦氏(愛知県、38cm)

当観測期間も北極冠が黄色っぽく記録された日がありました。北極冠がいつまで どんな姿で見られるか、気流の落ち着いた日にじっくり観測したいものです。ま た、南極地方の白雲にも注意を払いましょう。


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