天文ガイド 惑星の近況 2010年8月号 (No.125)
堀川邦昭、安達誠

木星はもうすぐ西矩を迎えます。梅雨の最中ではありますが、観測条件はしだい に良くなってくるでしょう。一方、木星のちょうど180°反対側にある土星は、 6月1日に留となり、順行に変わりました。表面輝度が低いので、観測は厳しくな ってくることでしょう。火星は、東矩を過ぎて地球からどんどん遠ざかりつつあ ります。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※小天体の衝突!

6月3日20時31分(UT)、オーストラリアのアンソニー・ウェズレー氏(Anthony Wesley)は、撮像観測中、淡化した南赤道縞(SEB)の南部に突然輝点が出現し、数 秒間輝いた後、消えるのを捉えました。その後、フィリピンのクリストファー・ ゴー氏もこの輝点を観測していることがわかり、小さな天体が木星に衝突した瞬 間を捉えた現象であることが明らかになりました。

小天体の衝突現象は、昨年7月の衝突痕出現に続き3度目です。過去の例では、天 体が木星に衝突する瞬間は観測されていないので、今回はその現場を捉えた史上 初めての観測となりました。ウェズレー氏は、前回の衝突痕の発見者でもあり、 大変な強運の持ち主と言えるでしょう。

衝突場所では、過去の例のように真っ黒な衝突痕の出現が期待されましたが、予 想に反して何の痕跡も検出されませんでした。衝突天体は極めて小さく、木星の 雲頂に到達する前に燃え尽きてしまったものと思われます。

それにしても、2年続けて衝突現象が観測されるとは驚きです。木星への小天体 の衝突は、我々が考えるよりずっと頻繁に起こっているのかもしれませんね。

[図1] 木星に小天体が衝突した瞬間
撮像:アンソニー・ウェズレー氏 (オーストラリア、33cm)


※木星面の状況

木星面は全体として、先月号でレポートした状況とほとんど変化していません。 SEBは今も淡化が進んでいるようで、ベルト本体はゾーンのように明るく、北組 織(SEBn)が淡いグレーのラインとして残るだけです。それでも、南熱帯(STrZ)と 比較すると、SEB内部には青い微細模様が広がって、やや薄暗く感じられます。 また、痕跡状に残る南組織(SEBs)は赤みがあるため、STrZとの境界線となってい ます。

[図2] 6月2日〜4日における木星面展開図
永長英夫氏(兵庫県、30cm)が撮像・作成したものを筆者改編。


大赤斑(RS)は赤茶色で、周囲に暗い模様がなくなったため、著しく目立つ存在と なっています。おそらく、前回濃化した2007年を上回り、最近20年間で最も濃い のではないかと思われます。シーイングが良ければ、小口径でも楽に認めること ができるでしょう。経度はII=149.8°(11日)で、前観測期間と変化ありません。 大赤斑の後方から永続白斑BAが近づきつつあります。赤みが強く、周囲に暗い模 様がないため、眼視でも薄暗い暗斑として認めることができます。6月11日でII= 186.9°にあり、1日に約-0.4°の割合で前進しており、9月頃には2年ぶりに大赤 斑の南に到達します。ちょうど赤色ダルマのような見え方になるのではないかと 期待されます。

SEBの淡化により木星面で目立つベルトは北赤道縞(NEB)の1本だけとなっていま す。ベルトが幅広く赤みを帯びているのは、昨年の拡幅活動の余波です。リフト 活動によってベルトが二条に見える経度もありますが、それほど激しいものでは ないようです。NEB南縁(NEBs edge)から赤道帯(EZ)へ伸びるフェストゥーン (festoon)は、まったくと言っていいほど見られません。拡幅活動で北側へ広が ったNEBの北縁(NEBn edge)はほぼ平坦ですが、II=240°付近でやや乱れています。 長命な高気圧的白斑であるWSZはII=110.4°(4日)にあり、大変明るく顕著です。

土星

5月下旬、環の傾きは+1.7°となり、今シーズンの極小を迎えました。どの画像 を見ても、春先に比べて環が細くなっているのがわかります。これから先は、環 がしだいに開いて、土星らしさが増してくることでしょう。

5月上旬に復活した南熱帯(STrZ)の白斑ですが、当観測期間は再び異常な見え方 になっています。図3は6月3日の土星面ですが、東西に伸びた明るい領域があり、 前後と中央の3ヵ所に明るい部分が見られます。経度から考えると、後端の最も 明るい部分が5月に復活した白斑に相当するので、今回の活動域は4月に元の白斑 が拡散して生じた明帯と同じ領域のようです。

[図3] 土星の白斑
撮像:アンソニー・ウェズレー氏 (オーストラリア、33cm)


3月から続く白斑の活動は、しだいに激しくなっているように見えます。このよ うな活動は、これまでほとんど観測されたことがありません。観測条件は今後、 厳しくなると予想されますが、可能な限り追跡したいものです。

火星

火星の季節は7月10日となり、北半球では夏至を向かえています。極冠は非常に 小さくなりましたが、気流さえよければなんとか確認することができます。視直 径は6秒と小さくなり、眼視で観測しても、大きな暗色模様以外はほとんど見え なくなってきます。

当観測期間で目立ったのは朝霧で、ダミアン・ピーチ(Damian Peach)氏の画像で は、ターミネーター付近から、経度にして30〜40°ほど昼側に広がっているのが 見られます。また、ヘラスの内部には、5月中旬まで白雲が見られましたが、一 時的に雲が見えにくくなった時期がありました。

[図4] 赤道付近に広がる朝霧
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)


5月11日、 北極冠が二つに区切られたような姿になっているのが捉えられました。 15日にも明るい部分が2つあるのがかろうじてわかります。北極冠の割れ目によ って、このような見え方をしたのではないかと思いましたが、調べてみると位置 が合わないので原因は不明です。

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