天文ガイド 惑星の近況 2012年4月号 (No.145)
安達誠、堀川邦昭
接近が近づいて明るさを増した火星は、木星に代わって夜空の主役となっていま す。これからしばらくの間は、火星がこのページのメインとなります。木星は 1月18日に東矩を過ぎ、観測シーズンは終盤を迎えています。天球上で木星と 180°離れている土星は、1月16日に西矩となりましたが、観測数は少ないままで す。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星
火星はしし座の後ろ足付近に輝いていて、10時過ぎには東の空に昇ります。明る さは0等級になり3月末には最接近を迎えます。Lsは60°を越え、北半球の夏至が 近づいています。視直径は12秒を超えたので、望遠鏡で見ると北極冠と共に、暗 い模様もよく見えるようになっています。

北極冠はだいぶ小さくなり、その周辺は目覚しく変化するようになって来ました。 画像は、およそ1ヵ月間の極冠の大きさの変化を示しています。これからどんど ん北極冠は縮小していきますので、ここしばらくの間は、その様子を詳しく観測 できることでしょう。

当観測期間は、極冠周辺で面白い現象が捉えられています。北極冠のエッジは、 それより北側の地域よりも数段明るく見えます。この原因は、縮小過程にある北 極冠のエッジから白雲(霧のようなもの)が出るためで、縮小期の極冠独特の現 象です。この雲は、北極冠の上でできた東風によって流され、しばしば極冠上に 砂嵐を引き起こします。良い条件下の観測ではありませんが、2月10日のアメリ カのシーン・ウォーカー(Sean Walker)氏の画像では、CM=170°付近の北極冠に やや黄色っぽい部分が見られます。これは北極冠の上で起こった初期の砂嵐であ る可能性があります。12日には、東風に流されて、CM=30°付近まで広がってい る様子が報告されています。今回は、まだこれ一度だけですが、これから何度も 同じような現象が起こると思われます。

縮小を始めた北極冠には「割れ目」のようなものが現れますが、今回も1月16日 にアキダリウムの北方で捉えられています(図1のc)。この様子は眼視でも確認さ れています。

火星の高地では、山岳雲が顕著になってきました。山岳雲は青画像で明瞭に検出 されます。視直径が大きくなり、火星像が大きくなるにつれて、カラー画像でも これらの雲が記録されるようになりました。雲は火星の午後半球で現れ、明暗境 界(ターミネーター)に近づくにつれて明瞭になります。図1のbの左側のターミネ ーターに見られる白雲はエリシウム山にかかる山岳雲で、図1のdの中央左に単独 で見える雲はオリンピア山、左端に見える一連の雲はタルシスの3山です。

[図1] 1月から2月にかけての火星面
(a/b)大シルチス付近 撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、(c)北極冠の 「割れ目」 撮像:エミル・クライカンプ氏(オランダ、40cm)、(d)北極 冠上の砂嵐と山岳雲 撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルト リコ、30cm)

木星

[図2] 大きく乱れたSEB南部
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

当観測期間も木星面には大きな変化は見られませんが、大赤斑後方の南赤道縞 (SEB)では、乱れた白雲領域であるpost-GRS disturbanceが発達して注目されま す。白雲領域は、大赤斑から約30°の範囲では、SEBの幅いっぱいに広がってお り、後方では南へ傾いた、この緯度特有の形状となっています。内部には明るい 白斑が多数存在し、大変活動的です。SEBをさらに後方へとたどると、II=200〜 300°台で、SEB南組織(SEBs)が大きく乱れていて、条件によっては、SEBの北半 分と後述する南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)の間のSEBsが、消失して いるように見えることもあります。post-GRS disturbanceの活動によって、後方 のSEBsに影響が及んでいるのかもしれません。

STrZのストリークは、ようやく淡化しつつあるようで、大赤斑前方では痩せてコ ントラストも低くなっています。眼視では条件が悪いこともあり、捉えることが できなくなっています。ただし、大赤斑にかかるアーチはまだ明瞭で、赤斑孔 (RS Hollow)の状態は、まだしばらく続きそうです。

一方、大赤斑前方のSEBは顕著で、強く赤みを帯びています。SEBは全体として、 シーズン初めと比べるとコントラストが高くなっていますので、紆余曲折を経な がらも、安定な濃いベルトに完全復活したと見てよさそうです。今後はSEBsのジ ェットストリームの活動に注意しなければなりません。

北赤道縞(NEB)は、全周どこを見ても太さが5°前後しかなく、異様に細くなって しまいました。淡化したベルトの北半分は、わずかに温調色が残っているため、 高解像度の画像では、白い北熱帯(NTrZ)と区別することができます。ほんの1年 前はベルトの中央やや北寄りにあったバージ(barge)は、北縁の後退によって幅 を広げたNTrZに取り残されて、孤立した暗斑になっています。バージは全周で 6個あり、II=110°のものが最も顕著ですが、以前よりも少し小さくなったよう に思われます。このようなNEBの異常状態がいつまで継続するのか予想もつきま せんが、将来、ベルトが復活する際にどのような現象が見られるか、大変興味深 く楽しみです。

土星

[図3] 1月中頃の土星面
NTZに白斑が見られる。撮像:山崎明宏氏(東京都、31cm)

土星の北熱帯(NTrZ)は、昨年見られた史上最大規模の白雲活動の余波で薄暗くな っていましたが、1月後半の画像を見ると、少し明るさを取り戻し始めたようで す。まだ淡い濃淡が残っていて、III=300°付近には白斑のような明部も見られ ます。また、当観測期間は、この暗帯の北側の北温帯(NTZ)が明るく見えていま す。所々に白斑があり、隣接するNTBとの境界が波打っています。

環の傾きは1月末に今シーズンの極大となりました。環が開くにつれて、土星の 南半球はどんどん狭くなり、薄い青みが目立つようになっています。2006年に北 半球が環の陰から顔を出した頃は、やはり同じような青白い色調でしたので、現 在の南半球は、急速に冷えつつあることを示していると思われます。

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