衝からひと月過ぎ、4月17日には早くも留となります。地球からも次第に遠ざか
り、望遠鏡で見る火星像は完全な円盤ではなく、西側が欠けているのがわかるよ
うになりました。北極冠は非常に小さくなりましたが、気流がよくなると周囲を
取り巻く暗いバンドの中で明るく輝いています。
【南半球の不可解な雲】
3月21日にアメリカのイェシュケ氏(Wayne Jaeschke)から、火星のターミネータ
ー(欠け際)に、かなりの高さの不思議な雲が報告されました(図1)。すぐに世界
中の観測者が確認観測を行いましたが、残念なことに日本から見えない位置にあ
り、国内では追跡できませんでした。この雲は奇妙な雲で、南半球高緯度の朝方
(西縁)にあり、通常の雲よりはるかに高い所に出ているように見えます。よく見
られるダストストームではないし、通常の氷晶雲でもないようです。
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[図1] 火星の縁から突出した雲 |
最大の雲を捉えた画像、6回中5回がこの地域で発生。撮像:
Donald Parker氏(米国、35cm) |
3月21日以前の画像をチェックすると、イェシュケ氏が観測する前にも同じよう
な雲が撮像されていることが判明しました。最初の観測は3月12日で、フランス
のデルクロワ氏(Marc Delcroix)とジャクソン氏(Michel Jacquesson)の二人が、
明瞭な突起模様(projection)として記録していました。また、19日にもイェシュ
ケ氏自身とプエルト・リコのリベラ氏(Efrain Morales Rivera)が別の活動を記
録しており、問題の21日の観測は3回目であることがわかりました。さらに過去
の記録を見ると、2003年11月8日に、沖縄の宮崎勲氏がよく似たものを観測して
いますし、古くは1950年代にも日本で同様の観測があることが分かっています。
その後も同じ現象が4月6日、9日、12日と観測され、現時点で6回記録されていま
す。発生経度を整理すると、ほとんどが西経240〜270°に集中していることがわ
かります。また、火星の季節を表すLsは、南半球の冬至を過ぎて火星表面が冷え
ている時期と重なり、このような条件が、発生の原因のひとつとなっている可能
性があります。もし、ダストに関係があるならば、高層まで運ばれた塵は簡単に
地表まで落ちずに上層大気に拡散するはずですが、この雲は発生した翌日に見え
なくなることもあり、塵ではないように思われます。本当に不可解な雲です。
この現象は海外でも注目されていますが、未だに成因についての見解が出ていま
せん。今後の進展が注目されます。
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[図2] 4回目の突出雲 |
この時だけは他の5回と異なる場所で出現した。撮像:Donald Parker氏
(米国、35cm) |
【その他の状況】
縮小の進んだ北極冠は、周囲を取り巻く暗いバンドが目立ちます。先月はバンド
の中一杯に広がっていましたが、今月はこじんまりと白く輝いています。好条件
下の画像では、大きな割れ目がはっきりと記録されますし、眼視で捉えることも
可能です。
タルシスの3つの成層火山やオリンピア山などの高い山は、火星の午後半球では
山岳雲がかかり、白く輝いて見えますが、午前半球では、赤黒い斑点として眼視
でもはっきりと確認できます。今回の接近は、低緯度地方の氷晶雲の広がりがと
りわけ大きい接近となりました。
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[図3] 火星火山と極冠の割れ目 |
中央左の黒点が成層火山。北極冠中央に割れ目が見える。撮像
:熊森照明氏(大阪府、28cm) |
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