天文ガイド 惑星の近況 2012年7月号 (No.148)
安達誠、堀川邦昭
火星は4月15日に留を過ぎて、日没後にはすでに東天高く昇るようになっていま す。視直径も10秒を切って、急に小さくなったように感じます。季節はずれの寒 気などで気流が悪く、国内では観測の成果がなかなか上がらない状態が続いてい ます。木星は5月13日に合となりましたが、その直前に大きな変化の兆しとなる 新たな活動が始まっています。4月16日に衝を迎えた土星は観測の好機が続いて います。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

前回の報告で書いた、ターミネーター付近の不思議な雲は、その後さらに一回観 測され、合計7回の発生となりました。発生位置は今までとは若干異なり、発生 地域は若干広がりました。そのため、原因がますますわからなくなってきました。

南半球の暗い模様であるマレ・シレナムやマレ・キンメリウムなどは、気流が悪 いとコントラストが低く、特にマレ・シレナムは、眼視では見えづらくなってい ます。しかし、前回報告した不思議な雲の見えた地域(エリダニア〜アウソニア 付近)は明るく、カラー画像ではやや赤っぽくなっています。元々、エリダニア は赤く見える地域なので、今回の現象との関係はわかりません。初めて不思議な 雲が観測された3月21日以前でも、明るく記録されているものが見られます。

[図1] 明るく輝くヘラス
左上で極冠のように白く明るい部分がヘラス。撮像:Wayne Jaeschke氏 (米国、35cm)

火星の表面は、午前半球を中心に広く雲に覆われている様子が、画像から読み取 れます。しかし、眼視ではそれほど広い範囲に雲が広がっているようには見えず、 画像とのギャップを大きく感じます。

午前半球では、低緯度地方を中心とした氷晶雲が顕著で、アマゾニスからタルシ ス付近にかけて目立っています。その他の地域でも青画像(450nm以下の波長)で 東西に淡く広がっている様子が記録されています。その他では、ヘラス盆地の白 雲が目立っています。夜明けと共に見えてきますが、しだいに明るくなり、正午 を過ぎると極冠と見まがうばかりの明るさになっていきます。この明るさの変化 は見事です。火星の日没時でさえも、かなりの明るさを保っています(図1)。

解像度の高い画像で見ると、この白雲はドーナツ状に広がっているのが読み取れ ます。最近の研究ではヘラス盆地の成因についての研究が進み、盆地の内側を取 り巻く強い風が吹いていることが分かっています。今回のドーナツ状の雲は、ヘ ラス内部の風の流れと関わりがあるかもしれません。

先月も書きましたが、北極冠の周囲は暗いバンドが取り巻いています。バンドの 外周りにはところどころに白い氷のような模様ができており、眼視観測でも一様 な明るさではないことが分かります。目立つのはエリシウムの北側で、北極冠の 一部かもしれませんが、国内は気流がよくないため、はっきりした姿を見ること は困難でした。いつまで、どのような大きさで残るかが今後、興味のあるところ です。北極冠は大きな谷によって広い方と狭い方に分けられていますが、狭い方 が明るく輝いて見えます。この様子は北極冠が小さくなって、周囲を取り巻く黒 いバンドが形成された頃から観測されています(図2)。これからは、極地でよく 起こる小規模な砂嵐で、極冠そのものが黄色くなり、永久北極冠となっていくこ とでしょう。

次第に視直径が小さくなり、観測条件は悪くなりますが、最近の技術ならまだま だ追跡できます。北極冠の変化を追跡して欲しいと思います。

[図2] 分離した北極冠
大きな暗条によって北極冠が2つに分離している。撮像:柚木健吉氏(大 阪府、26cm)

木星

太陽との合が目前の4月末になって、英国天文協会(BAA)のロジャース(Rogers)氏 より、北温帯縞南縁(NTBs)を流れるジェットストリームのアウトブレーク現象 (NTBs jetstream outbreak)が発生したとの緊急のアラートが発せられました。 発見者はギリシャのカルダシス(Manos Kardasis)氏で、4月19日に体系I=70°付 近で、明るい白斑が発生し、後方の北温帯縞(NTB)が20°ほど濃化しているのが 捉えられています。

[図3] NTBs jetstream outbreakの発生
中央左にLeading spotが見られ、後方でNTBが濃化している。赤外画像。 撮像:Manos Kardasis氏(ギリシャ、28cm)

NTBs jetstream outbreakは、木星面最速のジェットストリームで起こる突発的 な攪乱現象で、北温帯流-C(North Temperate Current C)とも呼ばれます。淡化 していた北温帯縞(NTB)が、高速で前進する先行白斑(Leading spot)によって、 大きく乱されながら濃化復活して行きます。前回は2007年でしたので、5年ぶり の発生となります。

19日に観測された白斑はLeading spotに違いなく、後方のNTBの濃化状況から判 断して、出現から一週間程度経過していると思われます。Leading spotは、今後 体系Iに対して1日当たり-5°という超高速で前進しながら、NTBを耕すように濃 化させて行くと予想されます。4月は悪条件の中、数名の観測者が濃化したNTBの 一部を捉えていますが、詳しく追跡することはできませんでした。来シーズンは 広範囲で濃く太いNTBが見られることでしょう。

3月に始まった北赤道縞(NEB)のリフト活動も、条件の悪化により追跡できなくな ってしまいました。シーズン終了直前のNEBはやや拡散して太く見えており、こ の活動が淡化しているベルト北部に影響を及ぼして、NEBの拡幅・復活が起こっ ている可能性もあります。

2011-12シーズンは、合の直前になって重要な現象が立て続けに起こってしまい ました。日の出前の東天で木星を観測できるようになるのは6月に入ってからに なると思われますが、木星面北半球の様相が一変している可能性があります。

土星

土星面は白雲活動の余波により、北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)までが幅広い 薄茶色のベルトとなっています。シーイングが良ければNEBやNTBを分離できます が、北熱帯(NTrZ)には淡い濃淡が残っており、強調処理された画像で見ると、ま だかなり乱れている様子です。また、NTB北縁には今も凹凸がが残り、北温帯 (NTZ)には不規則な明部が見られます。

興味深いことに、NTrZの緯度では土星面の東西で周辺減光が非常に強く効いてお り、どの画像を見ても土星の東西の縁が凹んで見えます。おそらく激しい白雲活 動によって土星大気が上層まで乱されたことにより、大気の散乱状態が通常とは 異なっているのではないかと思われます。

4月の北北温帯縞(NNTB)は、赤みの強いベルトとして目立っていましたが、5月は 少し薄れたようです。

[図4] 5月の土星面
撮像:山崎明宏氏(東京都、31cm)

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