前回の報告で書いた、ターミネーター付近の不思議な雲は、その後さらに一回観
測され、合計7回の発生となりました。発生位置は今までとは若干異なり、発生
地域は若干広がりました。そのため、原因がますますわからなくなってきました。
南半球の暗い模様であるマレ・シレナムやマレ・キンメリウムなどは、気流が悪
いとコントラストが低く、特にマレ・シレナムは、眼視では見えづらくなってい
ます。しかし、前回報告した不思議な雲の見えた地域(エリダニア〜アウソニア
付近)は明るく、カラー画像ではやや赤っぽくなっています。元々、エリダニア
は赤く見える地域なので、今回の現象との関係はわかりません。初めて不思議な
雲が観測された3月21日以前でも、明るく記録されているものが見られます。
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[図1] 明るく輝くヘラス |
左上で極冠のように白く明るい部分がヘラス。撮像:Wayne Jaeschke氏
(米国、35cm) |
火星の表面は、午前半球を中心に広く雲に覆われている様子が、画像から読み取
れます。しかし、眼視ではそれほど広い範囲に雲が広がっているようには見えず、
画像とのギャップを大きく感じます。
午前半球では、低緯度地方を中心とした氷晶雲が顕著で、アマゾニスからタルシ
ス付近にかけて目立っています。その他の地域でも青画像(450nm以下の波長)で
東西に淡く広がっている様子が記録されています。その他では、ヘラス盆地の白
雲が目立っています。夜明けと共に見えてきますが、しだいに明るくなり、正午
を過ぎると極冠と見まがうばかりの明るさになっていきます。この明るさの変化
は見事です。火星の日没時でさえも、かなりの明るさを保っています(図1)。
解像度の高い画像で見ると、この白雲はドーナツ状に広がっているのが読み取れ
ます。最近の研究ではヘラス盆地の成因についての研究が進み、盆地の内側を取
り巻く強い風が吹いていることが分かっています。今回のドーナツ状の雲は、ヘ
ラス内部の風の流れと関わりがあるかもしれません。
先月も書きましたが、北極冠の周囲は暗いバンドが取り巻いています。バンドの
外周りにはところどころに白い氷のような模様ができており、眼視観測でも一様
な明るさではないことが分かります。目立つのはエリシウムの北側で、北極冠の
一部かもしれませんが、国内は気流がよくないため、はっきりした姿を見ること
は困難でした。いつまで、どのような大きさで残るかが今後、興味のあるところ
です。北極冠は大きな谷によって広い方と狭い方に分けられていますが、狭い方
が明るく輝いて見えます。この様子は北極冠が小さくなって、周囲を取り巻く黒
いバンドが形成された頃から観測されています(図2)。これからは、極地でよく
起こる小規模な砂嵐で、極冠そのものが黄色くなり、永久北極冠となっていくこ
とでしょう。
次第に視直径が小さくなり、観測条件は悪くなりますが、最近の技術ならまだま
だ追跡できます。北極冠の変化を追跡して欲しいと思います。
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[図2] 分離した北極冠 |
大きな暗条によって北極冠が2つに分離している。撮像:柚木健吉氏(大
阪府、26cm) |
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