天文ガイド 惑星の近況 2012年8月号 (No.149)
安達誠、堀川邦昭
火星は、しし座からおとめ座に入り、6月11日に東矩を迎えました。地球からは どんどん遠くなり、視直径は7秒台になっています。火星の東で逆行中の土星は もうすぐ留となります。一方、明け方の東天には木星が姿を現し、2012-13シー ズンが幕を開けています。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

視直径が小さくなったため、眼視では400倍くらいの倍率をかけないと、模様の 検出が難しくなっています。梅雨に入って観測数が激減し、火星面の状況を把握 することが難しくなっています。この先の観測も厳しさが増して行くことでしょ う。

※南半球の不思議な雲

エリダニア付近の不可解な雲は、3月以降しばらく観測されませんでしたが、5月 17日になって、フランスのマクシモヴィッチ氏(Stanislas Maksymowicz)から、 眼視で同じような現象を捉えたとの報告がありました。22時10分(UT)に発見し、 21時30分には見えなくなったとのことです。直前の赤外画像を見ると怪しい突起 があるように見えますが、「確認」はできませんでした。以前の怪しい雲は、火 星のターミネーター付近で見られましたが、マクシモヴィッチ氏の突起は反対側 のエッジでした。5月23日にはフランスのペリエ氏(Christophe Pellier)が、青 画像で同じような模様をターミネーター上で捉えています。経度はアウソニア (258W, -35)とヘラス(295W, -50)の中間となる270°付近と思われます。視直径 が小さくなって観測が難しくなりますが、注意が必要です。

5月16日、アメリカのウィレムス氏(Freddy Willems)は、ノアキス(350W, -40)付 近が淡くベールに覆われているのを捉えました。23日には柚木氏がこの地域を黄 色く観測しています。前後の観測がなく、何が原因かはわかりませんが、小規模 な砂嵐があった可能性があります。

※その他の状況

北極冠はずいぶん小さくなりました。南半球のヘラス(295W, -50)にかかる雲が 著しく明るくなり、6月1日には、まるで南極冠のようでした。夜側から出てきた ヘラスには、すでに白雲(霜の可能性もある)が広がっていますが、午前中に急速 に雲が発達し、正午頃には大変明るくなります。そして、西のターミネーターに 入るまで明るい状態を保っています。

当観測期間は低緯度地方で氷晶雲がたくさん見られました。アキダリウム(30W, +50)の南側やシルチス(295W, +10)の東側など、いつも顕著な場所だけでなく、 それ以外の地域でも目だっていました。オリンピア山やタルシス3山の頂では氷 晶雲が見られなかったので、午前半休では赤黒い斑点として観測されました。

[図1] 6月の火星スケッチ [図2] 明るく輝くヘラス
模様に乏しい地域で北極冠は小さくなった。観測:安達誠(滋賀県、30cm)

大シルチスの南側で極冠のように明るい。撮像:佐々木一男氏(宮城県、20cm)

[図3] 低緯度地方の氷晶雲 [図4] タルシス3山
中央右側に淡く氷晶雲が広がっている。撮像:Maciel B. Sparrenberger氏(ブラジル、20cm)

右上から中央に向かって並んだ黒斑がタルシス3山。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)

木星

2012-13シーズンの最初の観測は、6月4日のカルダシス氏(Manos Kardasis)でし た。国内では9日の永長氏(兵庫県)が最も早く、10日の最上氏(東京都)と米山氏 (神奈川県)が続きます。まだ条件は非常に悪いものの、昨シーズン末に始まった 活動によって、合の間に北半球の様相がガラリと変化しています。

昨シーズンは、北赤道縞(NEB)が北半球で唯一のベルトでしたが、今シーズンは 北側にもう一本、濃く太いベルトが出現しています。これは、4月に北温帯縞南 縁(NTBs)のジェットストリームで起こったアウトブレーク現象(NTBs jetstream outbreak)によって復活したNTBです。復活したNTBはNEBを凌ぐ幅と濃度があり、 間の北熱帯(NTrZ)は薄暗く、太い暗柱状の模様も多く見られます。アウトブレ ークの発生から2ヶ月が経過していますが、乱れた模様が残っているので、まだ 活動は続いていると思われます。NTBsのアウトブレークは2007年以来、5年ぶり の現象ですが、復活したNTBの状況から見ると、前回よりもかなり大規模な活動 だったようです。

[図5] 復活したNTB
NTBはNEBよりも顕著になっている。EZも薄暗くEBが見られる。撮像:阿 久津富夫氏(フィリピン、35cm)

3月にリフト活動が始まったNEBは、現在もかなり濃淡があり乱れています。リフ ト活動とNTBsのアウトブレークが重なったことで、NEBが拡幅するのではと思わ れましたが、意外にもあまり太くなっていません。むしろ、リフト活動の影響は 赤道帯北部(EZn)に及んだようで、EZnが全体として黄色味を帯びて、数年ぶりに 大きなフェストゥーン(festoon)や明瞭な赤道紐(EB)が復活しています。

南半球では南赤道縞(SEB)が赤茶色の濃いベルトとして目立っています。大赤斑 (GRS)はII=180°付近にあり、明るいドーナツ状で赤斑孔(RS Hollow)の状態が続 いています。後方のSEBは大きく二条に分離しているので、大赤斑後方の攪乱領 域(post-GRS disturbance)は健在のようです。南温帯縞(STB)以南の状況はよく わかりませんが、II=230°付近に見られる明部は永続白斑BAと思われます。

今シーズンの木星面は、北半球の大変動で幕を開けました。今後、どのような変 化が見られるか、楽しみです。

土星

土星面は昨年の白雲活動の余波が続いているものの、以前の落着きを取り戻しつ つあります。夏が近づいてシーイングが良くなり、シャープな画像が多くなりま したが、中でも6月9日のゴー氏(Christopher Go)の画像が秀逸です。

通常は北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)までが一本の幅広いベルトのように見え ますが、ゴー氏の画像では色調の違いが鮮やかで、NEB南部が本来のベルトの色 である薄茶色なのに対し、白雲活動の影響を受けたNEB北部からNTBにかけては、 南半分が青灰色、北半分が赤みのある灰色をしており、北熱帯(NTrZ)はNTBと連 続して区別できません。以前、この領域では不規則な濃淡が残っていましたが、 現在はNEB北部でわずかに見られるだけで、ほぼ一様になってしまいました。

先月号で触れたNTrZの周辺減光の異常は、土星の前方側のリムでわずかに残って いるだけとなりました。高層大気の状態も元に戻りつつあるのかもしれません。

[図6] 6月の土星面
撮像:Christopher Go氏(フィリピン、35cm)

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