天文ガイド 惑星の近況 2013年10月号 (No.163)
堀川邦昭
木星は、まもなく合から2ヶ月が経ちます。明け方の空に高く昇るようになり、 観測条件はだいぶ良くなってきました。木星面の詳しい状況もわかってきていま す。

土星は7月24日に東矩を過ぎたばかりですが、赤緯が低いため早い時間に観測で きなくなってしまいます。観測条件が悪くなり、土星面の詳細が捉えにくくなっ てきました。

ここでは7月後半から8月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星の赤道をはさむ主要な2本のベルトのうち、北側(通常は下)に見られる北赤 道縞(NEB)は、ベルト北部が淡化してだいぶ細くなってきました。ちょうど大赤 斑(GRS)の北側に当たるII=200°前後の区間が最も細く、NEBの通常の幅(10°前 後)を下回っています。2011〜2012年にはベルトの太さがわずか5°という異常な 状態になるまで細くなりましたが、今回はどこまで細くなるのか、注目されます。 ベルトの北縁はかなり凸凹して、バージ(barge)と呼ばれる暗斑や、ベルトに半 分食い込んだノッチ(notch)状の白斑がいくつか見られます。II=240°付近にあ る大きな凹みは、昨シーズン衝突・合体を繰り返して発達した白斑WSZと思われ ますが、春先のような明るさはなくなっています。NEBの南縁には、いつものよ うに青黒い横長の暗部と、赤道帯(EZ)に伸びるフェストゥーン(festoon)がいく つも見られます。EZはやや薄暗く、青いフィラメント模様が見られ、一部は東西 につながって赤道紐(EB)を形成しています。

[図1] オレンジ色が鮮やかな大赤斑
後方のSEBが活動的。中央のNEB北縁に見られる凹みがWSZ。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)

今シーズンも大赤斑(GRS)が顕著です。オレンジ色が大変鮮やかで、濃度も十分 にあり、周囲の南赤道縞(SEB)と比べてもまったく見劣りしません。大赤斑の濃 度はSEBと反比例の関係にあると言われ、現在のようにSEBが濃い時の大赤斑とし ては、異例な状態が続いています。ただ、大赤斑後端とSEBは細いブリッジで連 結され、赤斑湾(RS bay)内部には薄暗い模様も見られるので、今後、SEB南縁を 後退するジェットストリーム暗斑の活動によって南部に暗いアーチが形成され、 大赤斑本体が淡化することも考えられるので、注意が必要です。経度はII=198° でゆっくりとした後退運動が続いています。II=200°を超えるのは時間の問題と 思われます。

大赤斑後方のSEBでは、post-GRS disturbanceと呼ばれる白雲領域が活動的にな っています。さらに後方ではSEB南部が淡く乱れており、ジェットストリーム暗 斑らしき模様も見られます。一方、大赤斑前方のSEBには大きな明部が見られま す。昨シーズンから観測されていますが、成因や性質がまったくわからないナゾ の白斑です。徐々に大赤斑に近づいているので、どんな振る舞いを見せるか注目 です。

[図2] 木星面展開図(2013年8月6日〜8日)
昨シーズンと大きな違いはないが、NEBが細くなっていることがわかる。8月6日〜8日に撮像された永長英夫氏(兵庫県、30cm)と阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)の画像から、永長氏が作成。

永続白斑BAは、II=60°付近で暗い縁取りに囲まれた赤みを帯びた白斑として見 られます。後方には南温帯縞(STB)の暗部がII=120°まで伸びています。また、 BAの前方でもSTBの北組織が濃く厚くなっているのが目につきます。STBの暗部が BAを越えて前方に漏れ出した影響と思われます。濃い部分はII=310°付近まで伸 びていますが、その前方でも細い北組織が大赤斑付近まで続いています。

STBの南側ではII=150〜330°の範囲で南南温帯縞(SSTB)が明瞭です。II=285〜 330°には高気圧的な小白斑AWOが4つ並んでいます。昨シーズン間隔が詰まって 合体するのではないかと思われたA8/A0/A1/A2です。他の経度のSSTBは淡化して、 ひとつ南側のベルトが濃くなっています。このベルトは南南南温帯縞(SSSTB)な のか、SSTB南組織なのか、名称に苦しみそうです。

北半球では、強く赤みを帯びていた北温帯縞(NTB)の南部が淡化して、濃い青灰 色の北組織が目立っています。その北側で北北温帯縞(NNTB)が濃く復活していま すが、II=150〜210°では不明瞭です。この領域ではNTB北組織が北にやや湾曲し、 北温帯(NTZ)が薄暗くなっています。その後方のNNTB南縁にはジェットストリー ム暗斑が見られます。

土星

土星の北極を取り巻く六角形のパターンは、観測条件が悪化するにつれてクリア に捉えられるチャンスが少なくなっていますが、まだまだ明瞭に見られます。周 囲の領域はさらに明るさを増しているようで、どの画像でも赤みを帯びているの がわかります。

シーズンの初めには、ほとんど一様に見えていた北赤道縞(NEB)から北温帯縞 (NTB)までの領域は、北縁部分が暗緑色に濃度を増して、幅広いベルトのように なっています。NTBと呼んでも差し支えないでしょう。赤みの強いNEBとの間は少 し薄明るくなっており、色調もNTBとNEBの中間的な色合いになってきました。北 熱帯(NTrZ)が3年ぶりに復活しつつあるようです。

太陽との合は、まだまだ先の10月ですが、条件の悪化に伴い観測数は激減してい ます。ひょっとすると、今月が実質的に今シーズンの最後になってしまうかもし れません。

[図3] 8月の土星面
赤いNEBと暗緑色のNTBが分離しつつある。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

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