[ナゾの明部と大赤斑の会合]
大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)に見られるナゾの明部(Light patch)が、早く
も大赤斑と相互作用を始めています。この明部は昨シーズンから観測されていて、
明瞭な輪郭を持たないがボンヤリとした白斑ですが、その素性や物理的性質につ
いては、よくわかっていません。高解像度の画像では、明部の上をSEBの暗部が
貫いているように見える場合もあり、我々の木星に関する知識では説明が難しい
模様です。
|
[図1] SEBのナゾの明部と大赤斑の会合 |
明部が斜めに変形し、明るいすじが後方に流れ出しているように見える。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、山崎明宏氏(東京都、20cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm) |
明部はゆっくりと大赤斑に向かって後退していましたが、9月になると、赤斑湾
(RS bay)の傾斜に沿うように明部が変形して見えるようになりました。後方に向
かって明るい「すじ」が伸びて、RS bayでSEBが最も狭くなっていることろで途
切れていますが、明部の一部なのかどうかよくわかりません。北側には、大赤斑
後方にあるSEBの活動域(post-GRS disturbance)から伸びる白雲が、細い明帯を
形成していますが、「すじは」白い明帯よりもかなり赤みがあり、濁っています。
また、明帯は大赤斑の後方から前方(左から右)へ流れていますので、「すじ」と
は流れのセンスが逆になります。
今後、明部は細長く変形しながら、RS bayの北縁と白い明帯の間に向かって進ん
で行くと思われますが、過去に例のないタイプの模様なので、どのような現象に
なるか予想がつきません。RS bayの北側で消失してしまうのか、何らかの形で大
赤斑後方に再出現するのか注目されます。
[その他の木星面]
北赤道縞(NEB)は北側が淡化して急速に細くなりつつあり、北縁はかなり起伏に
富んでいます。大赤斑前後の経度で最も細くなっており、II=215°付近にある大
きな凹みの部分に長命な白斑WSZがあります。春先には大きく明るい白斑として
目立っていましたが、現在のWSZはメタンバンドでは輝度の高い明瞭な白斑とし
て見られるものの、可視光ではいくつかの不規則な明部と淡い暗条の複合体にな
っており、どこに実体があるのかよくわかりません。
以前、NEB北縁の白斑同士の合体では、2つの白斑が密着して互いに回りあってい
る様子が観測されたことがあり、暗条の形や複数の明部の存在は、そのような状
況を想像させますが、2月の合体からすでに半年以上過ぎているので、断定する
には疑問が残ります。
WSZの前方にはよく目立つバージ(barge)が2つあります。かなり接近したので、
間もなく合体しそうですが、WSZが1日当たり-0.9°という高速で前進しているの
で、先に追いつかれて壊されてしまうかもしれません。
|
[図2] 大赤斑とWSZ |
大赤斑後方の黒点はエウロパの影。WSZ(矢印)は、どこが実体かよくわからない。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm) |
大赤斑は相変わらず赤みが強く顕著です。しかし、SEB南縁(SEBs)の後退暗斑の
活動に起因すると思われる細いブリッジが前後に見られ、以前よりも輪郭がやや
乱れているようです。経度はほぼII=200°に達しました。大赤斑後方のSEBでは、
post-GRS disturbanceが活動的です。乱れた白雲で満たされている主要部分は長
さ40°ほどですが、後方に尻尾のような明帯が長く伸びているのが印象的です。
|
[図3] 赤いBAとガニメデ本体 |
BAは暗い縁取りに囲まれている。前方のSTBnが暗斑に分解して見える。撮像:永長英夫(兵庫県、30cm) |
永続白斑BAはII=40°にあり、暗い縁取りで囲まれた赤い白斑として見られます。
後方に伸びる南温帯縞(STB)は長さが約50°で、少し短くなっているようです。
BA前方のSTB北組織(STBn)が濃くなっており、高解像度の画像では小暗斑に分解
することができます。これらはたぶん、ジェットストリーム暗斑と思われます。
南南温帯縞(SSTB)に見られる高気圧性の小白斑(AWO)は、昨シーズンから続く4個、
3個、2個のクラスターの他に、A7とA8の間に新しい白斑が出現して、全部で10個
になっています。どれも輪郭明瞭ですが、BA前方のA3だけは拡散した大きな白斑
に変化しています。
北温帯縞(NTB)は赤い南組織(NTBs)が淡くなり、北組織(NTBn)が濃く残っていま
す。大赤斑の北側、II=225°から前方ではNTBnが北側に垂れ下がり、北温帯
(NTZ)が薄暗く乱れています。また、II=170°には、昨シーズン話題になったメ
タンブライトな赤色暗斑(LRS)が見られます。今シーズンは周囲が薄暗いため、
今ひとつ目立ちませんが、現在も赤くメタンブライトな特徴は変わっていません。
|