天文ガイド 惑星の近況 2013年11月号 (No.164)
堀川邦昭

木星は、夜半過ぎに東天に昇るようになりました。日の出が遅くなった分、明け 方には天頂近くまで昇るので観測には好都合です。一方、土星は日没後の西南天 に見られますが、早い時間に高度を失うので観測条件は悪化の一途をたどってい ます。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星


[ナゾの明部と大赤斑の会合]

大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)に見られるナゾの明部(Light patch)が、早く も大赤斑と相互作用を始めています。この明部は昨シーズンから観測されていて、 明瞭な輪郭を持たないがボンヤリとした白斑ですが、その素性や物理的性質につ いては、よくわかっていません。高解像度の画像では、明部の上をSEBの暗部が 貫いているように見える場合もあり、我々の木星に関する知識では説明が難しい 模様です。

[図1] SEBのナゾの明部と大赤斑の会合
明部が斜めに変形し、明るいすじが後方に流れ出しているように見える。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、山崎明宏氏(東京都、20cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)

明部はゆっくりと大赤斑に向かって後退していましたが、9月になると、赤斑湾 (RS bay)の傾斜に沿うように明部が変形して見えるようになりました。後方に向 かって明るい「すじ」が伸びて、RS bayでSEBが最も狭くなっていることろで途 切れていますが、明部の一部なのかどうかよくわかりません。北側には、大赤斑 後方にあるSEBの活動域(post-GRS disturbance)から伸びる白雲が、細い明帯を 形成していますが、「すじは」白い明帯よりもかなり赤みがあり、濁っています。 また、明帯は大赤斑の後方から前方(左から右)へ流れていますので、「すじ」と は流れのセンスが逆になります。

今後、明部は細長く変形しながら、RS bayの北縁と白い明帯の間に向かって進ん で行くと思われますが、過去に例のないタイプの模様なので、どのような現象に なるか予想がつきません。RS bayの北側で消失してしまうのか、何らかの形で大 赤斑後方に再出現するのか注目されます。

[その他の木星面]

北赤道縞(NEB)は北側が淡化して急速に細くなりつつあり、北縁はかなり起伏に 富んでいます。大赤斑前後の経度で最も細くなっており、II=215°付近にある大 きな凹みの部分に長命な白斑WSZがあります。春先には大きく明るい白斑として 目立っていましたが、現在のWSZはメタンバンドでは輝度の高い明瞭な白斑とし て見られるものの、可視光ではいくつかの不規則な明部と淡い暗条の複合体にな っており、どこに実体があるのかよくわかりません。

以前、NEB北縁の白斑同士の合体では、2つの白斑が密着して互いに回りあってい る様子が観測されたことがあり、暗条の形や複数の明部の存在は、そのような状 況を想像させますが、2月の合体からすでに半年以上過ぎているので、断定する には疑問が残ります。

WSZの前方にはよく目立つバージ(barge)が2つあります。かなり接近したので、 間もなく合体しそうですが、WSZが1日当たり-0.9°という高速で前進しているの で、先に追いつかれて壊されてしまうかもしれません。

[図2] 大赤斑とWSZ
大赤斑後方の黒点はエウロパの影。WSZ(矢印)は、どこが実体かよくわからない。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

大赤斑は相変わらず赤みが強く顕著です。しかし、SEB南縁(SEBs)の後退暗斑の 活動に起因すると思われる細いブリッジが前後に見られ、以前よりも輪郭がやや 乱れているようです。経度はほぼII=200°に達しました。大赤斑後方のSEBでは、 post-GRS disturbanceが活動的です。乱れた白雲で満たされている主要部分は長 さ40°ほどですが、後方に尻尾のような明帯が長く伸びているのが印象的です。

[図3] 赤いBAとガニメデ本体
BAは暗い縁取りに囲まれている。前方のSTBnが暗斑に分解して見える。撮像:永長英夫(兵庫県、30cm)

永続白斑BAはII=40°にあり、暗い縁取りで囲まれた赤い白斑として見られます。 後方に伸びる南温帯縞(STB)は長さが約50°で、少し短くなっているようです。 BA前方のSTB北組織(STBn)が濃くなっており、高解像度の画像では小暗斑に分解 することができます。これらはたぶん、ジェットストリーム暗斑と思われます。

南南温帯縞(SSTB)に見られる高気圧性の小白斑(AWO)は、昨シーズンから続く4個、 3個、2個のクラスターの他に、A7とA8の間に新しい白斑が出現して、全部で10個 になっています。どれも輪郭明瞭ですが、BA前方のA3だけは拡散した大きな白斑 に変化しています。

北温帯縞(NTB)は赤い南組織(NTBs)が淡くなり、北組織(NTBn)が濃く残っていま す。大赤斑の北側、II=225°から前方ではNTBnが北側に垂れ下がり、北温帯 (NTZ)が薄暗く乱れています。また、II=170°には、昨シーズン話題になったメ タンブライトな赤色暗斑(LRS)が見られます。今シーズンは周囲が薄暗いため、 今ひとつ目立ちませんが、現在も赤くメタンブライトな特徴は変わっていません。

土星

観測条件の悪化を反映し、国内の観測は8月25日の堀内氏(京都府)で、海外から の報告も9月3日のバリー氏(オーストラリア)を最後に途絶えています。合はまだ ふた月近く先の11月7日ですが、今期の観測シーズンはこのまま終わってしまい そうです。

話題を集めた北極の六角形パターンは相変わらず健在です。この構造は1980年代 にボイジャーによって初めて観測され、2006年にはカッシーニによって再度確認 されました。ボイジャーの観測を解析したゴッドフリー(D.A. Godfley、1988)に よると、六角形パターンの凸部は北緯76°にあり、自転周期は土星の電波源とほ ぼ同じ10時間39分24秒であったとのことです。筆者が月惑星研究会の画像をいく つ測定したところ、今年の六角形は凸部が北緯77.3°にあり、体系III(10時間29 分22.4秒)に対してほとんど動いていませんでした。ボイジャーの観測と矛盾し ない結果となっています。

来シーズンは環の傾きが20°を超え、土星本体が環にすっぽりと包み込まれて見 えるようになります。六角形パターンや、明るさを取り戻し始めた北熱帯(NTrZ) の様子に注目しましょう。

[図4] 国内最後の土星画像
撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

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