9月に始まった南赤道縞(SEB)のナゾの明部と大赤斑(GRS)の会合は、現在もゆっくりと進
行しており、大赤斑前方のSEBでは、明部から流出したと思われる赤みを帯びた雲が勢力
を広げつつあります。元々、赤斑湾(RS bay)の北から前方のSEB北部には、後方の
post-GRS disturbanceから白いストリーク(streak)が伸びており、当初、赤みを帯びた雲
はSEBの中央に細長く横たわっていましたが、しだいに北側に広がって白いストリークの
上を覆って見えるようになりました。明部本体は10月に入って形が崩れ、赤みを帯びた雲
と一体となってしまいました(以下、この領域を明部Aと呼びます)。徐々に拡大している
明部Aですが、今のところRS bayで堰き止められて、大赤斑後方の領域に入り込んでいる
兆候は見られません。
9月下旬になると、RS bayの北縁が一部切れて、SEB内部と赤斑孔(RS Hollow)が連結し、
10月初めには、切れた部分に明るい白斑が出現しました。白斑から伸びる白い雲は、領域
Aにつながっているように見えます。それと時期を同じくして、後述するように、大赤斑
周囲が薄暗くなっていますので、明部Aの赤みを帯びた雲がRS Hollow側に流出した可能
性も疑われますが、明確な証拠はつかめていません。明部Aに滞留している赤みを帯びた
雲は、渦を巻いているようでもなく、拡散した感じで詳細な動きはよくわかっていません。
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[図1] SEBのナゾの明部と大赤斑の会合 |
明部から流出した赤みを帯びた雲が大赤斑前方のSEBに広がる様子がわかる。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、畑中明利氏(三重県、40cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) |
大赤斑は9月にII=200°を超え、10月半ばにはII=202°に達しています。2004年末〜2005
年初めにII=100°を超えてから、わずか8年半で100°も後退したことになります。大赤斑
の後退速度は近年増大する傾向にあり、昨シーズンの後退量は約16°に及びます。これは
大赤斑の歴史の中でも最大に近い値です。
大赤斑本体は、まだ鮮明なオレンジ色で大変目立っていますが、前後端にはSEBとつなが
る淡いブリッジが存在しますし、10月はRS Hollow内部や周囲の南熱帯(STrZ)が以前より
少し濁って、薄暗く感じられるようになっています。前述の明部Aから流出した赤みを帯
びた雲との関連が疑われる一方、大赤斑前方のSEBsに沿って灰色のstreakが形成され始め
ていますので、次第に活動的になっているSEB南縁(SEBs)を流れるジェットストリームも
影響を及ぼしていると思われます。今後、大赤斑が急速に淡化する可能性もあるので注意
が必要です。
北赤道縞(NEB)は北縁の後退が進み、だいぶ細くなってきました。すでに平常時の最も細
い状態になっているとみなすことができますが、II=120°にあるバージ(barge)の前後で
は、NEBの北部がさらに淡くなって、バージがNEBから分離したように見えているので、
2009年〜2010年に観測された異常に細いNEBが再現する兆候が見え始めています。NEBの内
部には短いリフトがいくつか見られ、南縁から数多くの明瞭なフェストゥーン(festoon)
が赤道帯(EZ)に向かって伸びています。
長命な北熱帯(NTrZ)の白斑WSZは、大赤斑の真北に位置しています。今シーズンは明るさ
がなく、卵形の白斑として観測されていませんが、NTrZの中央にあるモヤモヤとした灰色
の雲の塊がWSZの本体と思われます。
WSZの前方にあった2つのバージは9月中頃に合体しました。20日には南北に2つの暗斑が並
んでいるのが捉えられましたが、一時的なものだったようです。バージの合体と前後して、
後方からWSZが追いついています。WSZは速度がやや落ちたものの前進を続けており、バー
ジは前方に押し出されるように移動し、徐々に淡化しています。
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[図2] 顕著な大赤斑とWSZ |
大赤斑の真北にWSZ(矢印)が見られる。前方のNEはかなり細くなっている。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm) |
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