天文ガイド 惑星の近況 2014年1月号 (No.166)
堀川邦昭、安達誠

木星は10月16日の西矩からひと月経過し、夜半には東天高く昇るようになりました。観測 時間帯が明け方から夜中に切り替わる時期になっています。火星はしし座を順行中です。 まだまだ小さいのですが、熱心な観測者から報告が寄せられています。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。10月は複数の台風 が接近して悪天続きでしたが、10月末以降は晴れる日が多く、シーイングもこの季節とし ては、恵まれているようです。この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

まず、大赤斑(GRS)と会合中の南赤道縞(SEB)のナゾの明部の状況です。全体の様相は先月 号の報告と変わっていませんが、9月下旬から観測されていたSEB内部から赤斑孔 (RS Hollow)への開口部が10月下旬に閉じてしまい、現在は、半円形をした赤斑湾(RS bay) の輪郭が完全に復活しています。薄茶色をした明部の雲と、大赤斑後方の活動域(post-GRS disturbance)の白雲は、RS bay後部から斜め前方に伸びる暗条で隔てられていましたが、 現在は暗条が消失して直に接しています。両者はお互い逆向きに動いてRS bayの下でぶつ かっているはずですが、post-GRS disturbanceが大赤斑直後でやや活発になっている以外、 異常は見られません。

今も明瞭で赤みが鮮やかな大赤斑の周囲では、着実に暗部が発達しつつあります。以前見 られた大赤斑後端とSEBをつなぐ細いブリッジと前方の短いストリーク(streak)は、濃度 を増して、大赤斑南部を囲むアーチへと変化し始めていて、大赤斑前方の南熱帯(STrZ)も やや薄暗くなっています。また、11月は後方から南温帯縞(STB)の薄暗い暗部が大赤斑を 通過し始めたので、何か影響があるか注目したいところです。

[図1] SEBの明部と大赤斑の会合
RS Bayの開口部(▲)が10月26日頃に閉じてしまった。大赤斑周囲の暗部の発達にも注目。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、グレイ・ウォルカー氏(米国、25cm)

大赤斑後方のSEBでは長さ40°のpost-GRS disturbanceが活動的で、乱れた白雲に満たさ れています。後端にある白斑が最も大きく最も明るく見えます。その後方には、尻尾のよ うに細長い明帯がII=320°付近まで伸びており、SEB北組織(SEBn)が非常に濃くなってい ます。一方、大赤斑前方では、SEB南縁に沿って灰色のストリークが形成されて、ベルト が太く見えます。ストリークはII=50°付近まで続いていて、内部にはジェットストリー ム暗斑が多数含まれています。

II=15°に位置する永続白斑BAは、暗い縁取りで囲まれたリングになっていて、内部は赤 みのあり濁っています。後方には長さ約50°のSTBの暗部が続いています。前方でもSTB北 組織(STBn)が濃く見られますが、前方へ進むに従って暗斑群に分解しています。これらは おそらくジェットストリーム暗斑で、大赤斑方向に前進していると思われます。

[図2] 可視光とメタンで見る大赤斑周辺
SEB南縁の白点はエウロパ。メタン画像で見られる北半球の2個の白斑は、赤道よりがWSZ、極側がNNTZのメタン白斑

北半球に目を移すと、北赤道縞(NEB)は細くなり、北縁がかなり乱れて凸凹しています。 NEB北縁の後退期によく見られるバージや小白斑はほとんどありません。2009〜2010年の ように、さらに細くなる可能性もありますが、当時は見られなかったベルト内部のリフト 活動が、小規模ながら散見されます。長命な白斑WSZは、メタンバンドでは極めて明るい 白斑ですが、可視光では北熱帯(NTrZ)中央の薄暗いパッチで、白斑とは認識できません。 NEB南縁から赤道帯(EZ)に向かって顕著なフェストゥーン(festoon)が多数伸びており、EZ は北部がやや黄色みを帯びて薄暗くなっています。NEB南縁は濃い暗斑も時々出現し、活 動的になっています。

北温帯縞(NTB)の北はII=90〜260°の範囲で薄暗くなっています。しかし、以前見られた NTB北組織(NTBn)が北へ垂れ下がる構造はなくなり、乱れた暗色模様も少なくなっていま す。なお、II=130°のNTBnには白斑があり、明るい模様の乏しいこの領域で目立っていま す。

[図3] BAとその周辺
BAは内部が薄暗いリング白斑になっている。撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)

火星

火星の季節を表すLsは11月10日で48°となり、北半球では春分と夏至との中間点になりま した。視直径はやっと5秒越えたところですが、シーズン初めの4秒と比べると明らかに大 きくなりました。眼視で見ても、今まで見えにくかった模様も見やすくなってきたように 思います。

月惑星研究会に報告されてくる観測数はまだまだ少ないものの、熱心な観測者から報告に よると、北極冠の周辺は冷気の噴き出しに位置することから、しばしば良く晴れ、北極冠 を取り巻く黒いバンドが目立つようになっています。北極を覆っていた白雲の活動はほと んど見られなくなったように見えます(図4)。アメリカのブルース・マクドナルド氏 (Bruce Macdonald)の観測では、北極冠の中にドーナツ状の暗部が記録されていました。 普段の観測画像では北極冠は白飛びして内部の様子が分からないだけに、大変貴重な報告 となりました。

[図4] 北極冠内のリング模様
縮小しつつある北極冠の中に、ドーナツのようなリング状の薄暗いバンドが記録されている。撮像:ブルース・マクドナルド氏(米国、35cm)

前号で紹介した、9月20日に観測されたボレオシルチス(285W, +43)付近の円い雲は、今月 は報告されませんでした。MROの公開されている火星像で調べると、この円い雲が見事に とらえられていました(図5)。この白雲は、非常に規模の大きな雲ですが、短時間に拡散 するか淡くなるらしく、長期にわたる追跡は困難でした。地上からは精緻な観測が少なく、 先月以降は追跡することができませんでした。

火星の表面にはオリンピア山のような火山がありますが、それにかかる白雲が午後になる とよく見られます。これからは、北極冠の縮小期に起こる変化に注目した観測をお願いし ます。

[図5] MROによるボレオシルチスの円い雲
北極が上。北極冠のすぐ下に見える白く円いものが白雲。

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