今シーズンの木星面では、大赤斑(GRS)の顕著さが目を引きます。この20〜30年で、最も
明瞭と言っても過言ではありません。長径13°と小さいものの、鮮やかなオレンジ色をし
ており、外縁部と中央が濃く見られます。昨年秋に、ブリッジやアーチ、ストリークとい
った薄暗い模様が周囲に発達しましたが、ほとんど消失してしまいました。経度はII=206°
と後退を続けています。昨年9月にII=200°を超えてから、わずか4ヶ月で6°も動いたこ
とになります。近年の大赤斑は、年を追う毎に後退速度が大きくなっているようです。
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[図1] 大赤斑前方の木星面 |
中央にWSZが淡い斑点として見える。大赤斑前方にSTB Ghostがあり、SSTBには5個のAWOが並んでいる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm) |
南温帯縞(STB)の薄青い暗部が、大赤斑の南を通過して前方に進んでいます。通過に伴っ
て濃化したり、周囲に暗い模様が形成されるのではないかと思われましたが、逆に大赤斑
周囲の暗い模様が消失するという結果になっています。英国天文協会(BAA)のレポートで
は、この暗部のことを「STBの幽霊(STB Ghost)」と呼んでいます。いつまでも淡いままで
今ひとつ掴みどころのないこの模様の特徴を、うまく表現しています。
永続白斑BAはうす赤い濁った白斑で、周囲を暗い縁取りに囲まれたリングとして、II=345°
に見られます。後方には長さ40°のSTBの暗部が続いています。今年3月にSTB暗部が衝突
によってBAの前進速度が大きくなり、現在は1日当たり約0.5°になっています。BAの前方
には、STB北組織(STBn)に沿って多数のジェットストリーム暗斑が放出されていますので、
STBの暗部は徐々に崩壊して行く過程にあるようです。ジェットストリーム暗斑は、大赤
斑付近まで続いていますが、前述のSTB Ghostの前方では見られません。STB Ghostはこれ
らの暗斑に対して障壁となっているようです。
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[図3] 永続白斑BA付近 |
BAが薄暗いリング状に見える。前方のSTBnにはジェットストリーム暗斑群、SSTBにはA3〜A5のAWOと低気圧性の白斑。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm) |
南南温帯縞(SSTB)は太く二条に分離しており、内部には高気圧性の小白斑(AWO)が見られ
ます。今シーズンは、A7とA8の間に新しくA7aが形成されて、全部で10個になりました。
これらは3つのクラスターに分かれていて、最大のものは5個のAWOで構成され(A7a/A8/A0/
A1/A2)、他は3個(A3/A4/A5)と2個(A6/A7)のグループになっています。11月以降、A3とA4
の間のSSTBが明化して、低気圧性の白斑(CWO)になりました。通常、この種の模様はメタ
ンバンドでは暗く写るのですが、このCWOはメタンでも明るいという前例のない特徴を持
っています。
大赤斑と会合状態にあるSEBの薄茶色をしたナゾの明部は、ほとんど様相が変化していま
せん。12月末から、赤斑湾(RS bay)の北縁が再び開いて明部と連結していますが、薄茶色
の雲がRS bayに流出しているようには見えません。大赤斑後方のSEBに見られる白雲の活
動領域(post-GRS disturbance)は少し静かになったようで、大きな明るい白斑は少なくな
っています。
11月に赤化して話題になった北熱帯(NTrZ)の長命な白斑WSZは、現在も赤みのある斑点と
して見られますが、淡い上に明るいNTrZの中央に位置するためコントラストがほとんどな
く、眼視では30cmでもほとんど判別できません。細くなった北赤道縞(NEB)は、北縁が大
きく乱れて凸凹しています。
北温帯縞(NTB)は、淡く赤みのある南組織(NTBs)と濃く青黒い北組織(NTBn)に二分されて
いますが、II=260〜320°ではNTBnが北へ膨らんで北温帯(NTZ)が乱れており、北温帯攪乱
(N. Temperate disturbance)と呼べるような様相となっています。その前方でもNTBnはか
なり乱れており、低気圧的なフィラメント領域(FFR)が形成されています。
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[図2] 大赤斑とエウロパの経過 |
大赤斑の後端にエウロパが差し掛かっている。エウロパが自分の影の一部を覆い隠している(右上の拡大図)。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm) |
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