天文ガイド 惑星の近況 2014年3月号 (No.168)
堀川邦昭、安達誠

木星は、新年早々1月5日に衝を迎えました。観測の好機ですが、季節柄シーイングが悪く、 国内の観測は少なくなっています。火星はいよいよ接近の年になりました。現在、おとめ 座を順行中ですが、最接近には再びこのあたりに戻ってきます。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

今シーズンの木星面では、大赤斑(GRS)の顕著さが目を引きます。この20〜30年で、最も 明瞭と言っても過言ではありません。長径13°と小さいものの、鮮やかなオレンジ色をし ており、外縁部と中央が濃く見られます。昨年秋に、ブリッジやアーチ、ストリークとい った薄暗い模様が周囲に発達しましたが、ほとんど消失してしまいました。経度はII=206° と後退を続けています。昨年9月にII=200°を超えてから、わずか4ヶ月で6°も動いたこ とになります。近年の大赤斑は、年を追う毎に後退速度が大きくなっているようです。

[図1] 大赤斑前方の木星面
中央にWSZが淡い斑点として見える。大赤斑前方にSTB Ghostがあり、SSTBには5個のAWOが並んでいる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

南温帯縞(STB)の薄青い暗部が、大赤斑の南を通過して前方に進んでいます。通過に伴っ て濃化したり、周囲に暗い模様が形成されるのではないかと思われましたが、逆に大赤斑 周囲の暗い模様が消失するという結果になっています。英国天文協会(BAA)のレポートで は、この暗部のことを「STBの幽霊(STB Ghost)」と呼んでいます。いつまでも淡いままで 今ひとつ掴みどころのないこの模様の特徴を、うまく表現しています。

永続白斑BAはうす赤い濁った白斑で、周囲を暗い縁取りに囲まれたリングとして、II=345° に見られます。後方には長さ40°のSTBの暗部が続いています。今年3月にSTB暗部が衝突 によってBAの前進速度が大きくなり、現在は1日当たり約0.5°になっています。BAの前方 には、STB北組織(STBn)に沿って多数のジェットストリーム暗斑が放出されていますので、 STBの暗部は徐々に崩壊して行く過程にあるようです。ジェットストリーム暗斑は、大赤 斑付近まで続いていますが、前述のSTB Ghostの前方では見られません。STB Ghostはこれ らの暗斑に対して障壁となっているようです。

[図3] 永続白斑BA付近
BAが薄暗いリング状に見える。前方のSTBnにはジェットストリーム暗斑群、SSTBにはA3〜A5のAWOと低気圧性の白斑。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)

南南温帯縞(SSTB)は太く二条に分離しており、内部には高気圧性の小白斑(AWO)が見られ ます。今シーズンは、A7とA8の間に新しくA7aが形成されて、全部で10個になりました。 これらは3つのクラスターに分かれていて、最大のものは5個のAWOで構成され(A7a/A8/A0/ A1/A2)、他は3個(A3/A4/A5)と2個(A6/A7)のグループになっています。11月以降、A3とA4 の間のSSTBが明化して、低気圧性の白斑(CWO)になりました。通常、この種の模様はメタ ンバンドでは暗く写るのですが、このCWOはメタンでも明るいという前例のない特徴を持 っています。

大赤斑と会合状態にあるSEBの薄茶色をしたナゾの明部は、ほとんど様相が変化していま せん。12月末から、赤斑湾(RS bay)の北縁が再び開いて明部と連結していますが、薄茶色 の雲がRS bayに流出しているようには見えません。大赤斑後方のSEBに見られる白雲の活 動領域(post-GRS disturbance)は少し静かになったようで、大きな明るい白斑は少なくな っています。

11月に赤化して話題になった北熱帯(NTrZ)の長命な白斑WSZは、現在も赤みのある斑点と して見られますが、淡い上に明るいNTrZの中央に位置するためコントラストがほとんどな く、眼視では30cmでもほとんど判別できません。細くなった北赤道縞(NEB)は、北縁が大 きく乱れて凸凹しています。

北温帯縞(NTB)は、淡く赤みのある南組織(NTBs)と濃く青黒い北組織(NTBn)に二分されて いますが、II=260〜320°ではNTBnが北へ膨らんで北温帯(NTZ)が乱れており、北温帯攪乱 (N. Temperate disturbance)と呼べるような様相となっています。その前方でもNTBnはか なり乱れており、低気圧的なフィラメント領域(FFR)が形成されています。

[図2] 大赤斑とエウロパの経過
大赤斑の後端にエウロパが差し掛かっている。エウロパが自分の影の一部を覆い隠している(右上の拡大図)。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

火星

1月の視直径は7秒を超え、眼視でも模様が見やすくなってきました。季節を表すLsは70° で、北半球の夏至に近づいています。

北極冠は縮小を続けており、1月の中頃には極冠周辺にも変化が見られました。南半球中 緯度以南を除く暗い模様についての詳細ははっきりしないものの、北半球については、大 きな変化は見られませんでした。12月はオリンピア山をなど、山岳雲が顕著に見られまし た。

[図4] タルシスの山岳雲
(左)中央左、ターミネーター近くの白い雲が山岳雲。(右)中央左の南北に伸びる雲の帯が山岳雲。撮像:ジョン・スッセンバッハ氏(オランダ、28cm)、遠藤宏次氏(埼玉県 15cm)

山岳雲は火星の正午を過ぎると目立つようになり、午後半休ではたくさんの白雲が観測で きました。日本では冬の悪気流で観測は難しい状況でしたが、1月6日に遠藤氏がタルシス 火山の山岳雲をベルト状に捉えています。

北極冠が小さくなると、極冠から冷気が赤道方面に流れ出しますが、極冠の周りには時計 と反対回りの気流があるため、複雑な変化を見せます。砂嵐が起こることもあれば、冷気 による白雲の広がることもあります。地球からの観測でもそれが時々捉えられています。 今回は小規模なものがしばしば見られましたが、目だったものはありませんでした。

1月14日に、アメリカのパーカー氏から北極冠の大きな変化が報告されました。北極冠の 一部が大きくえぐられたような姿になっています。北極冠が、一気に溶けてしまうことは ありませんから、砂嵐が北極冠を覆ってしまったと想像できます。こういった現象は比較 的短期間で元の姿にもどりますが、いつまで観測できるか、興味のあるところです。

[図5] 変形した北極冠
北極冠の右上がへこんで見える。左側の大きな白雲はエリシウム高地の山岳雲。撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)

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