天文ガイド 惑星の近況 2014年6月号 (No.171)
堀川邦昭、安達誠

木星は4月3日に東矩となりました。日没時は天頂近くに見えていますが、あっという間に 高度が下がって像が悪くなってしまいます。火星は9日に衝を過ぎて、いよいよ14日の最 接近を迎えます。月惑星研究会に送られてくる画像も非常に多くなり、関心の高さを感じ ます。土星はようやく国内からも良い画像が報告されるようになりました。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)に見られる明部は、大赤斑と同じくらいの長さがある四 角形または楕円形の領域です。今年1月以降、前進に転じて大赤斑から徐々に離れつつあ りましたが、3月後半はII=170°付近で停滞し、4月に入ると再度後退する気配が見られま す。4月半ばの画像では、大赤斑前方に伸びる明るい南赤道縞帯(SEBZ)と連結し始めてい るように見えます。今回、再び大赤斑との会合が始まれば、今度こそ大赤斑に到達すると 思われますが、明部の行く手は赤斑湾(RS bay)とその後方のSEB活動域(post-GRS disturbance)で完全に塞がれているので、どのような現象が見られるか、ちょっと予想が つきません。以前と同じ速度で大赤斑に近づくとすれば、明部の本体が赤斑湾に到達する のは、合明けまもない8月頃となりそうです。

[図1] 大赤斑とSEBの明部
SEBの明部が四角形の領域として見られる。大赤斑南のSSTBを「ミッキーマウス白斑」が通過中。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

2月からII=200°台の北温帯縞北組織(NTBn)に2個の目立つ暗斑が見られます。淡化した NTBnの暗部の前後端が暗斑として残ったもので、1日当たり+0.5°で後退していましたが、 3月20日以降、後方の暗斑が急速に淡化し、24日を最後に消失してしまいました。消失し た位置は、ちょうど北温帯攪乱(NTD-1)の前端付近にあたります。NTD-1はNTBnと北北温帯 縞南縁(NNTBs)のジェットストリームが結合した構造と考えられ、同様の現象である南熱 帯攪乱(STr. Disturbance)では、2007年にSEB南縁(SEBs)の後退暗斑が攪乱前端で次々に Uターンする、循環気流(Circulating Current)という現象が観測されています。そのため、 消失したNTBnの暗斑が、NTD-1前端で反転してNNTBsを前進する暗斑に変化した可能性があ ります。候補となるNNTBsの暗斑は2個ありますが、肝心のUターンを観測できなかったた め、残念ながらよくわかりません。現在、NTBnのもうひとつの暗斑がNTD-1前端に向かっ て後退を続けているので、こちらにも注目したいと思います。

[図2] NTBnの暗斑の消失
白線はNTBnの暗斑の位置、斜線部はNTD-1のおよその位置を示す。

大赤斑はII=210°に位置します。相変わらず鮮やかなオレンジ色ですが、長径は13°台で、 昨シーズンよりも一層小さくなっています。大赤斑とII=300°にある永続白斑BAとの間に は、STBnに多数の小暗斑が見られます。ジェットストリームに乗って高速で前進していま すが、大赤斑通過時に壊されて、その一部は大赤斑周回しているようです。

南南温帯縞(SSTB)では、A3〜A5の3個の高気圧性白斑(AWO)が大赤斑の南側を通過中です。 A3とA4の間には低気圧性の白斑が挟まっていて、海外ではその外観から「ミッキーマウス」 と呼んでいるそうです。

火星

視直径は15秒を超え、気流が良ければかなり細かい模様も見られるようになりました。北 半球の夏至を過ぎたので、北極冠はすっかり小さくなりました。北極には北極冠を取り巻 く黒いリング状の模様がありますが、北極冠はその中に小さく見えるようになっています。 気流の良い時にはくっきりと見ることができます。画像では、北極冠に見られる大きな割 れ目が記録されるようになりました。また、その黒いリングの外側には取り残された北極 冠の一部が見えています。6月上旬にはDe(中央緯度)が+25.4°の極大に達しますから、今 よりも良い条件で北極冠の観察ができるものと思われます。

[図3] 小さくなった北極冠
探査機のとらえた永久北極冠の形がうかがわれる。極冠の左に白く見えるのが、取り残された北極冠の一部。撮像:熊森照明氏(大阪府、28p)

図3の画像には、南半球のヘラスが白く明るく写っています。ヘラスはほぼ円形の大きな 盆地です。南半球は冬至を迎えていますので、白くなった部分は盆地の底部にできた霜だ と考えられます。ヘラスの東部は外壁が低くなっており、東側に白雲の広がった様子が見 られます(これは霜の可能性もあります)。

[図4] 東西に広がった白雲
紫外フィルターで表面模様を抑えた画像。一番下の小白斑が北極冠。東西に淡い雲のベルトが写っている。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26p)

赤道付近の白雲は、全周にわたって広がり、青画像で見るとその様子が特によくわかりま す。眼視観測でも、火星像の東西のリムから内側に向かって広がる姿がよく見られます。 大シルチスは火星像の周辺近くになると、この雲に覆われ、青っぽくなった姿が眼視でも 見ることができました。

これからは、北極冠の変化やダストストームの発生、とりわけ、南極周辺の白雲の変化に 注目していきたいと思います。

[図5] 筆者のスケッチ
大シルチスは中間部分が白雲に覆われ、淡くなっている。北方のボレオシルチスも東のリムの方が見えなくなっている。安達誠(滋賀県、31cm)

土星

春本番となってシーイングが改善し、国内の観測でも北極の六角形パターンが明瞭に捉え られるようになりました。

まず目につくのは大きく開いた鮮やかなリングで、カシニの空隙が太く鮮明に見られます。 土星面の状況はまったく変わっていません。赤みのある北赤道縞(NEB)を除くと、北半球 中緯度帯は一様に薄緑色で覆われていて、高解像度の画像では淡い縞状の濃淡が見られま す。北極の六角形パターンの周囲は、赤〜黄色系の二層のゾーンとなっており、内側が真 紅で暗く、外側は黄色っぽく明るくなっています。

[図6] 4月の土星面
北半球は北極の六角形パターン以外は模様に乏しい。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)

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