3月半ば以降II=170°付近で停滞していた大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)の明部(light
patch)は、4月末から再び前進し始め、大赤斑から離れつつあります。先月号では、再び
大赤斑に接近すると予想しましたが、反対になってしまいました。この明部に関する筆者
の予想は外れてばかりで、本当によくわからない明部だと感じています。5月中旬はII=
165°に位置し、横に長い楕円形をしています。長径は15°もあり、大赤斑よりも大きな
模様です。明部の上をSEBの暗いすじが横切っている様相も以前と変わりありません。メ
タンバンド画像ではほとんど識別できないので、雲の鉛直構造や対流とは関係のない、ベ
ルト内部のアルベドの違いなのかもしれません。
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[図1] 大赤斑とSEBの明部 |
SEBの明部は大赤斑よりも大きい。大赤斑周囲は周回する暗斑で薄暗くなっている。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm) |
SEBの南縁(SEBs)を流れる後退ジェットストリームが活動的になっています。ベルト南縁
に沿って小さな暗斑や突起(projection)が多数並び、まるでのこぎりの歯のようにギザギ
ザになっています。一部はII=213°にある大赤斑に達して、赤斑湾(RS bay)の縁に沿って
周回しているようです。一方、南温帯縞北縁(STBn)を前進するジェットストリーム暗斑も
大赤斑を通過する際に壊されて、一部がまとわりつくように周回しています。そのため、
大赤斑の周囲が少し薄暗くなり、後方のSEBとの間には細いブリッジが形成されました。
通常、ジェットストリーム暗斑との会合が起こると、大赤斑は淡化して不明瞭になるので
すが、今シーズンは輪郭が少しぼやける程度で、今もオレンジ色が大変顕著です。
3月に北温帯攪乱(NTD-1)の前端で消失した北温帯縞北組織(NTBn)の暗斑は、循環気流によ
る北北温帯縞南縁(NNTBs)への移動が期待されましたが、残念ながら確証は得られません
でした。また、もうひとつの暗斑も4月21日以降、急速に淡化して、26日には痕跡状とな
り消失してしまいました。そこで、高解像度の画像で5月初めの周辺の状況を精査しまし
たが、循環気流が疑われるようなNNTBsの暗斑を見つけることはできませんでした。
一時、衝突痕ではないかと話題になった北温帯(NTZ)の小暗斑は、後退してII=90°付近に
位置します。4月に入って東西に伸長し、長さ20°のやや乱れた暗部に成長しています。
大赤斑の南を通過した南南温帯縞(SSTB)の通称ミッキーマウス白斑は、両耳となる高気圧
的白斑(AWO)のA3とA4が離れ、顔にあたる中央の低気圧的白斑(CWO)が引き伸ばされたため、
形が崩れてしまいました。大赤斑の影響がすぐ南のSTBだけでなく、SSTBにも及んでいる
ことを物語っています。
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