天文ガイド 惑星の近況 2014年7月号 (No.172)
堀川邦昭、安達誠

5月11日に土星が衝となり、見ごろを迎えています。低調だった観測報告も数が増えまし た。火星は最接近を過ぎて地球から遠ざかりつつありますが、まだまだ観測の好機が続い ています。木星はふたご座を順行中です。日没も遅くなったので、観測時間がすいぶん短 くなった気がします。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

3月半ば以降II=170°付近で停滞していた大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)の明部(light patch)は、4月末から再び前進し始め、大赤斑から離れつつあります。先月号では、再び 大赤斑に接近すると予想しましたが、反対になってしまいました。この明部に関する筆者 の予想は外れてばかりで、本当によくわからない明部だと感じています。5月中旬はII= 165°に位置し、横に長い楕円形をしています。長径は15°もあり、大赤斑よりも大きな 模様です。明部の上をSEBの暗いすじが横切っている様相も以前と変わりありません。メ タンバンド画像ではほとんど識別できないので、雲の鉛直構造や対流とは関係のない、ベ ルト内部のアルベドの違いなのかもしれません。

[図1] 大赤斑とSEBの明部
SEBの明部は大赤斑よりも大きい。大赤斑周囲は周回する暗斑で薄暗くなっている。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

SEBの南縁(SEBs)を流れる後退ジェットストリームが活動的になっています。ベルト南縁 に沿って小さな暗斑や突起(projection)が多数並び、まるでのこぎりの歯のようにギザギ ザになっています。一部はII=213°にある大赤斑に達して、赤斑湾(RS bay)の縁に沿って 周回しているようです。一方、南温帯縞北縁(STBn)を前進するジェットストリーム暗斑も 大赤斑を通過する際に壊されて、一部がまとわりつくように周回しています。そのため、 大赤斑の周囲が少し薄暗くなり、後方のSEBとの間には細いブリッジが形成されました。 通常、ジェットストリーム暗斑との会合が起こると、大赤斑は淡化して不明瞭になるので すが、今シーズンは輪郭が少しぼやける程度で、今もオレンジ色が大変顕著です。

3月に北温帯攪乱(NTD-1)の前端で消失した北温帯縞北組織(NTBn)の暗斑は、循環気流によ る北北温帯縞南縁(NNTBs)への移動が期待されましたが、残念ながら確証は得られません でした。また、もうひとつの暗斑も4月21日以降、急速に淡化して、26日には痕跡状とな り消失してしまいました。そこで、高解像度の画像で5月初めの周辺の状況を精査しまし たが、循環気流が疑われるようなNNTBsの暗斑を見つけることはできませんでした。

一時、衝突痕ではないかと話題になった北温帯(NTZ)の小暗斑は、後退してII=90°付近に 位置します。4月に入って東西に伸長し、長さ20°のやや乱れた暗部に成長しています。

大赤斑の南を通過した南南温帯縞(SSTB)の通称ミッキーマウス白斑は、両耳となる高気圧 的白斑(AWO)のA3とA4が離れ、顔にあたる中央の低気圧的白斑(CWO)が引き伸ばされたため、 形が崩れてしまいました。大赤斑の影響がすぐ南のSTBだけでなく、SSTBにも及んでいる ことを物語っています。

火星

5月10日のLsは128°で、北半球は秋分に向かって進んでいます。視直径も14秒を切りまし た。

火星の表面は、衝の前とは様子がずいぶん違ってきました。これまで山岳にできていた白 雲の活動は目立って少なくなってきました。オリンピア山など、火星時で正午を回ると、 白雲は白く明るく見えていましたが、その姿は急速に衰えてきています。

[図2] 中央に来たオリンピア山
中央右の小さく白いリングがオリンピア山。山岳雲の活動が低調になった。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

一方、火星の午前半球では朝霧と思われる白雲が、低緯度のターミネーターから中央に向 かって広がる姿が顕著になりました。さらに、その白雲の中に成層火山の頂上が赤黒い暗 斑として見られるようになりました。オリンピア山やタルシスの3つの成層火山ではその 様子が顕著です。

[図3] 異様に暗く写った模様
暗色模様の場所で暗い部分が目立つ。この領域よく晴れている。撮像:ギャリー・ウォーカー氏(米国、25cm)

4月になると、アキダリウム海の北側を中心に非常に乾燥した地域が目立つようになりま した。この部分は、この時期になると時々見られるのですが、画像を撮影すると異常に暗 く写ります。暗い模様の広がった地域に特に目立ちます。この乾燥した部分には肉眼でも 模様が黒々と見えています。大気中の水蒸気量の減少と関係があるようです。

[図4] ヘラスの白雲
ヘラスから外に広がる白雲が見える。ヘラスの中央の雲はまだ少ない。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

一方、南半球のヘラスは、南の端に位置し、見えてくると白い雲か霜に覆われている様子 が顕著で、一般の観望会をすると、この雲を極冠と間違う人がたくさん出ています。本当 の北極冠はかなり小さいですが、倍率を上げると容易に確認できます。この時期、北極と 低緯度地方の3か所に白いもの(白雲や極冠)が見え、印象的な姿になっています。

ヘラスの白雲は、ヘラス自身が欠け際から出てくる前に、霧状になって姿を現します。ヘ ラス全体が夜明けになるころから急速に明るさを増し、白雲をたくわえたままターミネー ターに沈んでいきます。この時、ヘラス盆地の外壁の低いところには雲が進出し、ヘラス は本来の姿よりも大きく見えました。

今後は、南極冠の形成が始まるため、南極周囲の変化に注目しなければなりません。

土星

土星面では、暗灰色をした北極の六角形パターンから外側に向かって、暗い真紅と明るい オレンジの2つのゾーンが取り囲んでいるのが印象的です。一様に薄緑色が広がっている ように見えていた中緯度にも微妙に色調の異なる縞模様があり、数年前に大規模な白雲活 動があった北熱帯(NTrZ)が最も濃い緑色に見えています。

北赤道縞(NEB)はくすんだオレンジ色で、赤道帯(EZ)との境界はシャープですが、NTrZと は互いに溶け込んで境界がわからなくなっています。EZは明るいクリーム色で、赤道部分 はやや薄暗くなっています。

白雲活動以前は、コントラストの低い白斑などがしばしば観測されましたが、現在は高解 像度の画像でも斑点などの模様がまったく見られません。

環は大きく開いてカシニの空隙がぐるりと取り巻き、C環もはっきり見えます。環が本体 を横切る部分では、A環を透かして本体が見えています。

[図5] 5月の土星面
好条件下では北半球高緯度に微妙なベルト構造が見られる。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

前号へ INDEXへ 次号へ