天文ガイド 惑星の近況 2014年8月号 (No.173)
安達誠、堀川邦昭

夜空を見上げると、西から東に向かって火星−スピカ−土星−アンタレスと明るい星たち が並んでいます。土星は観測の好機が続いていますが、火星は、接近からふた月が過ぎ、 急速に地球から遠ざかっています。木星は梅雨入りとともに観測シーズン終了となり、 7月25日の合を待つばかりです。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星の視直径は11秒になりました。これからどんどん小さくなり、条件も悪くなります。 Lsは140°で、北半球の夏至と秋分の中間に相当します。

北極冠は事実上最小の状態になっています。近年の画像は目を見張るものがあり、MGSで 撮られた永久北極冠の姿を彷彿とさせるような報告もあります。火星面では非常によく晴 れた地域(大気中の水蒸気量の少ない地域)が目立ちました(図1)。朝霧が少なくなった代 わりに、アマゾン周辺からタルシスやクサンテ方面の氷晶雲が目立っています。5月15日 にはフランスのペリエ氏(Christophe Pellier)が東西にバンド状に広がった氷晶雲を記録 しました。赤道付近と南北半球の中緯度地方に横たわっていました。国内でも、5月23日 頃、エリシウム付近で淡く記録されました。

[図1] 火星面の晴れ間
南北半球に、乾燥した晴れ間が出現。特に黒いところが晴れた領域。撮像:ホアキン・カマレナ氏(スペイン、30p)

氷晶雲が目立つこの時期は、成層火山は赤黒い斑点として観測されます。オリンピア山や タルシスの3つの成層火山は、中央の小黒点の周りをリング状の暗部が取り巻くような姿 で記録されました。しかし、これも6月に入るとほとんど見られなくなっています(図2)。

5月15日にペリエ氏は、アキダリウムの中の白雲が移動する様子をおよそ2時間半に渡って 捉えました。報告によれば時速130〜140q程度の速度で広がっているということでした。 動画もありますので、興味のある方は月惑星研究会のHPをご覧ください。

南極は冬至を過ぎて、極冠の形成の時期になっています。次回は、南極の変化が見られる ことでしょう。

[図2] 氷晶雲と火山による斑点
白い部分が氷晶雲で、3個並んだ暗斑はタルシス火山の頂上部。撮像:ジョン・スーセンバック氏(オランダ、28cm)

土星

条件が良くなり、高解像度の画像が増えています。どの画像でも土星面は色調豊かで、大 変美しく見えます。

北緯34°までの低緯度帯は、クリーム色の赤道帯(EZ)と赤みのある北赤道縞(NEB)で占め られています。中緯度は概ね薄い緑色ですが、中央の北緯50°付近に北温帯縞(NTB)と思 われる赤系のベルトが見られます。北緯60°より北では、オレンジと暗赤色の二層のゾー ンが北極の六角形パターンを取り囲んでいます。最近は、内側の暗い方のゾーンがより暗 くなって、六角形とのコントラストが低下しているようです。

先月も書いたように、以前は土星面の至る所で白斑などが頻繁に観測されましたが、現在 はまったく見られません。まるで2010年の白雲活動でエネルギーを使い果たしてしまった かのようです。

[図3] 色調豊かな土星面
北極周辺が暗くなって、六角形パターンはわかりづらくなっている。撮像:山崎明宏氏(東京都、31cm)

木星

大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)の明部(light patch)は、II=165°付近で停滞していま す。長径16〜17°もある長方形の領域で、大赤斑よりも大きくなりました。紆余曲折を経 ながらも少しずつ成長しているようです。

大赤斑は周囲が少し薄暗くなりましたが、本体はオレンジ色のままです。経度はII=214° と後退を続けていますが、以前ほど後退速度は大きくありません。大赤斑後方のSEBの活 動域(post-GRS disturbance)は不活発で、長さ約20°に縮小してしまいました。

永続白斑BAはII=270°と、大赤斑に近づいて来ました。秋には大赤斑の南側を通過すると 見込まれます。南温帯縞(STB)の暗部は、長さが30°くらいに短くなっています。昨年3月 にBAに追いついた時は70°以上ありましたので、1年ちょっとで半分以下に短縮したこと になります。これは、前の世代のSTB暗部と比べても、大変大きな縮小率です。BAと大赤 斑の間では、STB北組織(STBn)に沿ってジェットストリーム暗斑が多数観測されましたが、 5月末以降、BAからの暗斑供給が中断しているようで、BA前方30°ではSTBnが淡くなって います。

来シーズンはどのような木星面が見られるでしょうか。大赤斑の様相の変化や、SEBで起 こるmid-SEB outbreakの発生などに注意が必要と思われます。合の間に大きな変化がない ことを願いたいものです。

[図4] 2013-14シーズンの木星面
撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、柚木健吉氏(大阪府、26cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、阿久津富夫氏(栃木県、35cm)、岩政隆一氏(神奈川県、35cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)

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