天文ガイド 惑星の近況 2015年9月号 (No.186)
堀川邦昭

木星の観測シーズンが終わろうとしています。夕暮れの西天ではすでに金星の下になり、 肉眼で見ることも困難になっています。8月下旬の太陽との合をはさんで、しばらくの間 は観測はお休みとなります。土星はてんびん座を逆行中です。日没まもなく南中となりま すので、観測の好機なのですが、赤緯が低いため、数時間で高度が下がってしまいます。

ここでは6月後半から7月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

図1は2014-15シーズンの代表的な木星面です。今シーズン最も注目されたのは、大赤斑 (GRS)周辺の活動でした。2014年10月に大赤斑後方に循環気流が形成され、カギ爪のよう に発達した大きな暗部から大赤斑前方に暗斑やストリーク(dark streak)などが繰り返し 放出されて、南熱帯(STrZ)を暗化させました。この活動は今年1月まで続きましたが、そ の後急速に淡化・消失してしまいました。

[図1] 今シーズンの木星面
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、堀内直氏(京都府、30cm)、米山誠一氏(神奈川県、25cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、岩政隆一氏(神奈川県、35cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、35cm)

大赤斑はシーズンを通して明瞭で、オレンジ色が鮮やかでした。前述の暗部の活動によっ て淡化すると思われましたが、まったく影響が見られませんでした。これは大変異例なこ とです。昨年8月にII=215°だった経度は、II=230°へと後退しました。暗部の活動のた め、一時的に後退のスピードが鈍ったのですが、現在では元に戻ったようです。長径は平 均14.2°で、近年の急速な縮小はストップしましたが、依然として小さいままです。

永続白斑BAは、シーズンを通して暗い縁取りのある薄暗い白斑でした。現在はII=90°に 位置しています。BA後方に長く伸びていた南温帯縞(STB)の断片は、次第に短縮して暗斑 になってしまいました。近年はBA後方でSTBの形成と短縮・消失が繰り返されていて、現 在の断片は2000年から数えて4世代目になります。大赤斑の後方にあるSTB Ghostは5世代 目のSTBと考えられており、いずれはBAに追いついてベルトの断片となるはずです。現在 は青黒い低気圧的な領域ですが、大赤斑を通過する際に暗化・伸長する可能性があります。 シーズン明けにどのような状態になっているか注目です。

北半球では北赤道縞(NEB)の拡幅が進行中です。II=330°付近にある白斑WSZの後方ではか なり幅広くなっていますが、その他の経度は未発達のように見えます。こちらも合明けの 状況を確認する必要があるでしょう。

土星

北北温帯縞(NNTB)と思われるベルトの北側に出現した暗斑は、現在も確認できます。赤外 画像では明瞭なのですが、可視光ではまったくと言っていいほど認めることができません。 体系IIIに対して1日当たり-11.4°と経度変化が大きいため、いつ、どの経度を観測すれ ば暗斑を捉えられるか、わかりにくくなっています。6月29日の暗斑の経度はIII=87°で したので、これを基準に経度を見積もってください。

最近は土星面が活発になっています。6月21日にデルクロワ氏(フランス)が、I=135°付近 の赤道帯(EZ)に白斑を報告していて、その後のいくつかの画像でも確認できます。この白 斑も体系Iに対して前進しており、7月10日にはI=70°付近に移動しています。

今シーズンは、北温帯縞(NTB)が赤みの強いベルトとして明瞭になっています。ベルトは 大きく広がって二条になっていますが、最近はベルトの中央部分が青みを帯びて見えるよ うになっています。土星面は斑点の活動は少ないのですが、色調はかなり大きく変化する ことがしだいに明らかになりつつあります。

図2に近年の土星面の様子を並べました。最も大きな出来事は、2010年末に発生した大規 模な白雲活動(左から2番目の画像)ですが、その影響が2013年まで続いたことがわかりま す。現在は、中緯度のベルト構造が徐々にはっきりしつつある段階のようです。北極地方 の六角形パターンは2013年から見られるようになりましたが、すぐ外側の領域の明るさに よって、見え方が大きく変わることがわかります。

[図2] 過去5年間の土星面北半球の変化
2010年末に発生した白雲活動は2013年頃まで影響が残った。現在は、中緯度のベルト構造が明瞭になりつつある。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、山崎明宏氏(東京都、31cm)、阿久津富夫氏(栃木県、35cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)

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