天文ガイド 惑星の近況 2015年10月号 (No.187)
堀川邦昭

土星はてんびん座の東端付近に位置し、8月2日に留、17日に東矩となりました。日没時の 高度はまだ30°以上ありますが、すぐに下がってしまうので、観測できるのは1〜2時間ほ どしかありません。木星は8月27日に太陽と合となりますので、観測はしばらくお休みで す。また、14日に金星が内合となり、夕方から明け方の空へと移ります。

ここでは7月後半から8月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

土星

北北温帯縞(NNTB)の北側、北緯64°の赤外暗斑は、当観測期間もいくつかの画像で捉えら れています。8月の経度は、1日の永長氏(兵庫県)の画像でIII=76.3°、14日のGo氏(フィ リピン)の画像でIII=288.2°となっており、1日当たり-11.3°という前進速度はほとんど 変化していません。観測条件が悪くなってきましたので、少し不鮮明になってきましたが、 赤外画像では孤立した暗斑で、周辺のベルト構造が乱れているのがわかります。しかし、 可視画像では赤色光でも非常に不明瞭で、カラー画像ではまったく確認することができま せん。

大きく二条に分離した北温帯縞(NTB)は、先月のレポートで述べたとおり、中央部分が薄 青色に変化して、好条件下のいくつかの画像では大変鮮やかに見られます。土星の縞模様 は、木星よりも色のバリエーションに富んでいますが、このような鮮やかな青色のベルト は、ちょっとお目にかかったことがありません。現在の土星面は、赤道帯(EZ)がクリーム 色で低緯度地方は赤〜茶色系をしていますが、中緯度地方は前述の鮮やかな薄青色、高緯 度〜極地方は緑色系で、4つの色調のコントラストが大変印象的です。

[図1] 土星面の状況
上) 可視光画像。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)
下) 赤外画像。▼印の位置に暗斑がある。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

金星

8月14日に金星が内合となりました。内合では金星が太陽と地球の間に入るので、新月の ように見えなくなってしまうと思われがちですが、実際には太陽との赤緯差が8°あるの で、明るい部分が細く残ります。図は、内合のわずか2日後の金星です。よく見ると、三 日月状になった金星の先端が、夜の側に回りこんでいるのがわかります。金星の大気によ る効果です。

[図2] 内合直後の金星
撮像:米山誠一氏(神奈川県、10cm)

木星

2014/15シーズン最後の観測は、8月1日の宮崎氏(沖縄)でした。他にも、7月末までにオー ストラリアのウェズレー(Anthony Wesley)氏から数点の画像が報告されていて、シーズン 末の木星面の状況を知ることができます。

II=232°にある大赤斑(GRS)は赤みが強く、その20°ほど後方の南温帯縞(STB)には、青黒 く三角形をしたSTB Ghostが迫っています。このようなSTBの青黒い領域は、低気圧的な循 環を持つベルトの一部で、大赤斑を通過する際に暗化・発達して、長いベルトの断片にな る場合があります。

大赤斑前方の南赤道縞(SEB)では、3年前から存続するSEBの明部(light patch)が東西に拡 散し、細長い南赤道縞帯(SEBZ)を形成しています。ウェズレー氏の赤外画像では、特に幅 広く明るく見られます。

北半球では、7月後半、北緯19.2°の北熱帯(NTrZ)に孤立した暗斑が出現しています。7月 28日の画像では、II=144.4°に位置していましたが、II系に対して1日当たり-1.8°とい う、この領域としては異例のスピードで前進しています。おそらく、現在進行中となって いる北赤道縞(NEB)の拡幅現象に伴う活動と思われます。

来シーズンのスタートは9月半ばになると予想されます。前述のSTB Ghostの様子や、NEB 拡幅の状況、大赤斑やその周辺で起こる変化についても注目しましょう。また、SEB内部 で起こる激しい白雲活動であるmid-SEB outbreakは、いつ発生してもおかしくない時期に ありますので、こちらについても注意を払いたいものです。

[大赤斑の90日振動]

大赤斑固有の運動としては、90日周期の振動運動が有名です。1963年から1968年までのニ ューメキシコ州立大学(NMSUO)の写真観測から発見されました。周期90.09日、振幅0.8° という、大赤斑のサイズと比べれば非常に小さな動きなので、眼視観測で検出するのは極 めて困難でした。近年は撮像技術の進歩によって大赤斑の経度を精度良く決めることがで きるようになりましたので、画像を測定したデータを使って振動運動の検出を試みました。

図3は2003年以降の大赤斑の動きです。経度はこの間の平均のドリフトに合わせた特殊経 度になっています。木星像のエッジは周辺減光によって不明瞭になりがちなので、個々の 測定値には依然として1〜2°の誤差がありますが、適切な統計処理を施すことで、周期 90.4日、振幅0.6°の振動運動を明らかにすることができました。前述のNMSUOの結果とよ く一致しています。

全体の動きとしては、2007年と2010年のSEB攪乱(SEB Disturbance)と今シーズンの循環気 流の活動によって一時的に変化していて、SEB南縁(SEBs)を流れる後退ジェットストリー ムの活動が関係していると思われます。一方、90日周期の振動は12年間ほとんど乱れてい ません。1日当たり+4°で後退するジェットストリームが木星面をひと回りするのに90日 かかりますので、この振動運動もジェットストリームに原因があると思われるのですが、 前述の経度変化とリンクしていないのは不思議なことです。

[図3] 大赤斑の90日振動
2003年以降の大赤斑の経度を30日間の移動平均で表した。縦軸はII系に対して0.032°/dayで後退する特殊経度を採用している。日付軸の目盛りは180日間隔。90日周期で振動運動をしている様子がはっきりとわかる。月惑星研究会/東亜天文学会 木土星課の画像より、筆者測定・作成。

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