2014/15シーズン最後の観測は、8月1日の宮崎氏(沖縄)でした。他にも、7月末までにオー
ストラリアのウェズレー(Anthony Wesley)氏から数点の画像が報告されていて、シーズン
末の木星面の状況を知ることができます。
II=232°にある大赤斑(GRS)は赤みが強く、その20°ほど後方の南温帯縞(STB)には、青黒
く三角形をしたSTB Ghostが迫っています。このようなSTBの青黒い領域は、低気圧的な循
環を持つベルトの一部で、大赤斑を通過する際に暗化・発達して、長いベルトの断片にな
る場合があります。
大赤斑前方の南赤道縞(SEB)では、3年前から存続するSEBの明部(light patch)が東西に拡
散し、細長い南赤道縞帯(SEBZ)を形成しています。ウェズレー氏の赤外画像では、特に幅
広く明るく見られます。
北半球では、7月後半、北緯19.2°の北熱帯(NTrZ)に孤立した暗斑が出現しています。7月
28日の画像では、II=144.4°に位置していましたが、II系に対して1日当たり-1.8°とい
う、この領域としては異例のスピードで前進しています。おそらく、現在進行中となって
いる北赤道縞(NEB)の拡幅現象に伴う活動と思われます。
来シーズンのスタートは9月半ばになると予想されます。前述のSTB Ghostの様子や、NEB
拡幅の状況、大赤斑やその周辺で起こる変化についても注目しましょう。また、SEB内部
で起こる激しい白雲活動であるmid-SEB outbreakは、いつ発生してもおかしくない時期に
ありますので、こちらについても注意を払いたいものです。
[大赤斑の90日振動]
大赤斑固有の運動としては、90日周期の振動運動が有名です。1963年から1968年までのニ
ューメキシコ州立大学(NMSUO)の写真観測から発見されました。周期90.09日、振幅0.8°
という、大赤斑のサイズと比べれば非常に小さな動きなので、眼視観測で検出するのは極
めて困難でした。近年は撮像技術の進歩によって大赤斑の経度を精度良く決めることがで
きるようになりましたので、画像を測定したデータを使って振動運動の検出を試みました。
図3は2003年以降の大赤斑の動きです。経度はこの間の平均のドリフトに合わせた特殊経
度になっています。木星像のエッジは周辺減光によって不明瞭になりがちなので、個々の
測定値には依然として1〜2°の誤差がありますが、適切な統計処理を施すことで、周期
90.4日、振幅0.6°の振動運動を明らかにすることができました。前述のNMSUOの結果とよ
く一致しています。
全体の動きとしては、2007年と2010年のSEB攪乱(SEB Disturbance)と今シーズンの循環気
流の活動によって一時的に変化していて、SEB南縁(SEBs)を流れる後退ジェットストリー
ムの活動が関係していると思われます。一方、90日周期の振動は12年間ほとんど乱れてい
ません。1日当たり+4°で後退するジェットストリームが木星面をひと回りするのに90日
かかりますので、この振動運動もジェットストリームに原因があると思われるのですが、
前述の経度変化とリンクしていないのは不思議なことです。
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[図3] 大赤斑の90日振動 |
2003年以降の大赤斑の経度を30日間の移動平均で表した。縦軸はII系に対して0.032°/dayで後退する特殊経度を採用している。日付軸の目盛りは180日間隔。90日周期で振動運動をしている様子がはっきりとわかる。月惑星研究会/東亜天文学会 木土星課の画像より、筆者測定・作成。 |
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