天文ガイド 惑星の近況 2015年11月号 (No.188)
堀川邦昭

木星が明け方の東天に姿を現すようになりました。8月27日の合を過ぎたばかりで、日の 出直前プラス低空の悪条件ではありますが、すでに観測始まっています。土星は8月17日 に東矩となりました。太陽との合は11月末とまだ先ですが、低空のため観測できるのは、 日没後のわずかな時間しかありません。そのため、観測数は大変少なくなってしまいまし た。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

2015-16シーズンの最初の観測は、沖縄県の宮崎勲氏による9月8日の画像でした。日の出 わずか9分前、高度は6.9°という、厳しい条件での画像ですが、木星面の主要なベルトと ソーンを確認することができます。宮崎氏はその後15日まで連日撮像を行っており、木星 面全周の状況を伝えてきてくれています。15日現在、他の観測者からの報告は、海外を含 めてありませんので、宮崎氏の観測は、合明けの木星面の状況を知ることのできる、大変 貴重なものといえます。

木星面全体としては、昨シーズン末からほとんど変化していないようです。南赤道縞 (SEB)と北赤道縞(NEB)がメジャーなベルトで、他に南南温帯縞(SSTB)が濃く太いベルトと して見えており、その他のベルトやゾーンの配置や濃度もほぼ同じです。合の間に大きな 変化がなく、ひと安心といったところです。

大赤斑(GRS)は11日の画像で鮮明に確認できました。経度はII=232°で、昨シーズン末と 変わっていません。北部がやや淡いのか、少し扁平な印象を受けますが、赤みが強く、濃 度もかなりあります。周辺の南熱帯(STrZ)はすっきりと明るく、ストリークなどの暗色模 様は見られません。

[図1] 顕著な大赤斑
大赤斑は赤みだけでなく、濃度もかなりある。周囲に暗色模様はない。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

SEBは、細部はよくわからないものの、全体としては濃く幅広く、南縁には凹凸も見られ ますので、昨シーズンと同じ状況と思われます。大赤斑後方の定常的な活動領域 (post-GRS disturbance)は、大赤斑近くに明るい明部が見られ、その後方もII=290°付近 までSEBがやや淡くなっているので、少し活動的になった可能性があります。

南温帯縞(STB)の青黒い三角形の領域であるSTB Ghostは、合の間に大赤斑の南を通過した はずですが、今のところ確認できていません。大赤斑を通過する際に濃化するのではと期 待されましたが、淡いままのようです。永続白斑BAもII=60°付近にあると思われますが、 まだ確認できません。

赤道帯(EZ)は明るいゾーンで、NEB南縁に沿って見られる青黒い暗斑や長い暗部から、フェ ストゥーン(festoon)と呼ばれる細いひげ上の模様がEZ中央に向かって伸びています。昨 シーズンとほぼ同じ様相です。

拡幅が進行中のNEBは、やや太くなったような印象を受けますが、悪条件化の画像で、ベ ルトの縁が鮮明でないためかもしれません。後述する北熱帯(NTrZ)の白斑WSZの後方で幅 広く、大赤斑後方の経度でやや細いといったパターンは、昨シーズンと変わっていません。

NTrZは明るく暗色模様は見られませんので、北温帯縞南縁(NTBs)を流れるジェットストリ ームのアウトブレーク(NTBs jetstream outbreak)はまだ起こっていません。次は2017年 頃と予想されていますが、北温帯縞(NTB)南組織が淡化して1年以上経ちますので、今後は 十分に警戒する必要があると思われます。長命なNTrZの白斑WSZはII=312°にあります。 周囲のNTrZよりも一段明るいのですが、コントラストはあまりないので、条件が悪いと厳 しいかもしれません。

NTB以北を見ると、大赤斑やWSZの北側の経度では淡いNTB北組織(NTBn)と濃い北北温帯縞 (NNTB)の二本のベルトを認めることができますが、II=0〜180°付近は暗く幅広いベルト が一本だけ見られます。北温帯(NTZ)が暗化してNTBnからNNTBまでが融合した北温帯攪乱 (NTD)と呼ばれる暗部が昨シーズン観測されていましたので、この暗部が現在も残ってい るようです。

[図2] 経過中のカリストとエウロパの影
NTZの大きな黒点がカリスト本体。NEB南縁の黒点がエウロパの影。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

土星

観測条件が悪くなるにしたがい、北北温帯縞(NNTB)の北側、北緯64°にある赤外暗斑も、 確認が難しくなりつつありますそれでも、オーストラリアのバリー氏(Trevor Barry)によ る9月上旬の複数の画像で淡く見えていますし、12日の岩政氏(神奈川県)の赤外画像でも、 微かながらIII=317°の位置に認めることができます。前進速度は1日当たり-11.3°で まったく変わっていません。今年4月に発見されて以来、すでに土星面を4周以上回ってし まいました。風速に換算すると秒速66m、自転周期に換算すると10時間30分35秒に相当し ます。

[図3] 今月の土星面
可視光による土星。コントラストは低いが、中緯度のベルト構造ガ明瞭になりつつある。縦軸撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

土星の北半球高緯度に出現した斑点で有名なのは、1960年に出現したボサム斑点またはド ルフュス斑点と呼ばれる北緯60°の白斑です。3月末に南アメリカのボサムが発見し、4月 末にフランスの天文学者ドルフュスが観測した頃まではひとつの大きく明るい白斑でした が、5月以降に他の観測者が追跡した時は経度方向に拡散して、複数の白斑に分かれてい たようです。これらの白斑については、10時間39〜40分という自転周期が求められていま す。これは10時間39分22.4秒という体系IIIとほぼ同じで、今回の赤外暗斑よりもかなり 長い値です。探査機の観測によると、土星の北緯60〜70°には秒速100mを超えるジェット ストリームがあります。今回の赤外暗斑は1960年の白斑よりも緯度が高いので、このジェ ットストリームに向かう速度勾配の大きい場所に位置しているようです。

その他の土星面はほとんど変化が見られません。緯度による4つの色調(赤道帯=クリーム 色、低緯度=赤〜茶色、中緯度=薄青色、高緯度=緑色系)は現在も続いていますが、最 近は中緯度の青色が拡散して不明瞭な印象を受けます。ただし、これは条件の悪化による ものかもしれません。

[図4] 土星の赤外暗斑
赤外光(685nm)による土星面。▼の先に赤外暗斑があるが、淡く不明瞭。北極の六角形が明瞭に見られる。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

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