天文ガイド 惑星の近況 2022年1月号 (No.262)

堀川邦昭


土星は11月4日にやぎ座で東矩を迎えました。 木星もまもなく東矩となります。 秋が深まるにつれてシーイングが悪くなり、視直径の減少も加わって惑星面の詳細を捉えるのが難しくなっています。

ここでは11月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

またしても閃光現象が観測されました。 今回は国内での観測で、発見者は京都大助教の有松亘氏です。 ニュースでも報道されて大きな話題となりました。 発生日時は10月15日13時24分(UT)、場所は北緯20°、II=202°の北熱帯(NTrZ)で、今回も衝突痕は残りませんでした。 詳しくは有松氏の解説記事をご覧ください。

発生時刻が少し遅く、木星が西に傾いていたため、同時観測は国内の2例のみで、海外での観測はありませんでした。 筆者も観測中でしたが、スケッチを描いている間だったようで、閃光を見ていません。 今回は専門家が「狙って撮った」初めての事例です。 研究成果に期待したいと思います。

木星面は概ね落ち着いた状況にあります。 大赤斑(GRS)はオレンジ色が鮮やかですが、長径は12.7°で小さくなったままです。 9月に大きく後退しましたが、10月はII=4°でほぼ一定でした。

大赤斑から永続白斑BAまでの区間は、注目される模様が集まっていて、木星面で最もにぎやかです。 南南温帯縞(SSTB)には5個の高気圧性の白斑(AWO)が大赤斑の南を通過し始めていて、先頭のA1とA2が前方へ出ました。 南温帯縞(STB)では、DS7と呼ばれる暗部が大赤斑に接近しています。 以前の暗部先端は、昨年のSTB Spectreという低気圧性領域の後端に一致していましたが、9月下旬にDS7が追いつき置き換わってしまいました。 現在のDS7は前方に暗斑群を放出しながら東西に伸長し、形が崩れています。 暗斑群のいくつかは大赤斑の南を通過する際に、巻き込まれているようです。

淡化した北赤道縞(NEB)北部には全周で8個のバージ(barge)があり、大赤斑北側にある2個が特に大きく濃く目立っています。 NTrZには5〜6個の白斑が存在します。 NEBが幅広く見えていた今年前半は、北縁の白斑として良く見えていましたが、現在は周囲が明るく観測条件も悪くなっているため、画像でも確認が困難になっています。 これらのうち、II=210°にある白斑は、周囲に薄茶色の取り巻きができて、赤化の兆候が見られます。

北温帯縞(NTB)北縁では、II=60°前後にあった3個の暗斑が10月上旬に次々に合体して、長さ20°もある東西に長い暗部になってしまいました。

ジェットストリーム暗斑が全周を取り巻いて活動的な北北温帯縞(NNTB)の北側の北北温帯(NNTZ)には、3つの長命な白斑があります。 メタン画像では明瞭ですが、可視光ではNN-WS6が明るく目立つだけで、NN-WS4は確認できません。 NN-LRS1は見事だったリング状の取り巻きがなくなって不明瞭になってしまいました。 NN-WS6の後方、II=170°にはもうひとつ明るい白斑があります。 元々はもっと北の北北北温帯縞(NNNTB)の白斑でしたが、8月にNN-LRS1の北を通過した後に緯度変化して、NNTZの白斑となった変わり種です。

[図1] 大赤斑周辺の様子
大赤斑は明瞭で、後方からSTBの暗部(DS7)が接近中。南側にSSTBのAWOがずらりと並ぶ。中央の黒点はエウロパの影。撮像:石橋力氏(神奈川県、31cm)
[図2] 北温帯縞の暗斑の合体
NTB北縁にあった2個の丸い小暗斑とバージが合体する様子。バージが小暗斑に吸いつくように合体し、東西に長い暗部となった。
[図3] 北北北温帯の白斑の緯度変化
8月初めにはNN-LRS1の北側にあった白斑が、徐々に赤道方向にシフトして、9月末には北北温帯(NNTZ)の白斑になってしまった。この間の緯度変化量は4.5°に及ぶ。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、堀内直氏(京都府、40cm)

土星

東矩となり、環の右側には土星本体の影が大きく見えています。 5月の西矩の頃と比べると、影の幅が異様に大きいことに気づきます。 これは環の平面に対する傾きが、太陽よりも地球の方が2°以上大きく、環に落ちた影を土星の北極越しに見る位置関係になっているためです。 西矩の頃はこの逆で、土星本体が邪魔になって少ししか見えなかったというわけです。 土星の環は、このような幾何学的な見え方の違いを観察するのも面白いものです。 北極周辺の色調は大きく変わっていませんが、9月に明るい黄色からオレンジ〜赤に変化した北緯61〜69°の領域は、さらに赤みが増してきたようです。

[図4] 土星本体の影の比較
西矩と東矩では、環に落ちる土星本体の影の大きさが大きく異なる。環の影(図の上側)の見え方の違いと、環の南北方向の幅の違いから、太陽と地球の南北方向の位置関係が逆になっていることがわかる。撮像:左) ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)、右) 伊藤了史氏(愛知県、30cm)

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