天文ガイド 惑星の近況 2024年2月号 (No.287)

堀川邦昭


衝を過ぎたばかりの木星は、おひつじ座を逆行中で観測の好機が続いています。 土星は11月28日に東矩となり、観測時間帯は夕方に移りました。 11月前半は温暖でシーイングの良い日が多かったのですが、 後半に寒気が入ると急激に悪くなってしまいました。

ここでは12月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

11月15日12時41分、またもや木星面で閃光現象が観測されました。 第一報告者は北海道の宮原正育氏で、L画像の撮像中に閃光を捉えたとのことです。 他にも荒川毅氏(奈良県)、鈴木邦彦氏(神奈川県)、井上修氏(大阪府)が撮像に成功しています。 発生位置はI=350°、南緯7°の赤道帯南部(EZs)で、継続時間は報告によってバラつきがあるものの概ね2秒前後だったようです。 動画などで見ると、閃光独特のフレアのような輝線が見られますが、8月の閃光に比べると小規模で、今回も衝突痕は残りませんでした。 閃光現象は2010年以降では11件目で、1年のうちに複数回発生したのは、2021年に続き3回目です。 また、直近は3件連続で日本で観測されています。

大赤斑(GRS)は相変わらずオレンジ色ですが、周囲を暗部に囲まれて、やや淡く見えています。 近年は縮小傾向に拍車がかかっていますが、今シーズンの平均長径は11.5°と、昨年を下回り、観測史上最小を更新しています。 大赤斑の南側では永続白斑BAが通り抜けて前方に出ました。 9月末からとても不明瞭になっていましたが、周囲の暗い縁取りが復活して見やすくなりました。 以前に比べてひと回り大きくなり、長径は9.8°と大赤斑とほとんど変わりありません。

木星面の約半周で濃いベルトとして見られる南温帯縞(STB)は、BAの前方と後方の2つの暗部に分割されています。 前方の暗部は今年初めにDS7とWS6の2つのベルトの断片が合体したもので、現在も前半分は濃く後半分は淡いので、連結したままの状態にあるようです。 前方にはSTB北組織(STBn)に沿って大量のジェットストリーム暗斑が連なっています。 11月に前端部分が崩れて暗斑群に分解する様子が観察されました。 また、後方のWS6も暗斑を放出しているようで、暗部の前端付近は両方から来た暗斑が混じり合って混沌としています。

北赤道縞(NEB)では、相変わらず活発なリフト活動が見られます。 先月、NEBの局所的な拡幅域で発達したリフト領域は、前進してII=100°付近に位置します。 この活動で拡幅域は北縁の膨らみがしぼんで通常のベルト幅に戻ってしまいました。 拡幅は解消したと思われましたが、11月13日頃からII=175°にある大きな赤茶色のバージから、北熱帯(NTrZ)にストリークが伸び始め、NEB北縁が活動的になっています。 この領域の活動には引き続き注意が必要です。

南極地方(SPR)は概ね薄暗いだけの領域ですが、II=290°付近にはS4-LRS1と呼ばれる長命な薄茶色の白斑(AWO)が存在します。 このS4-LRS1に別の小白斑が接近し、11月15日頃に合体してしまったようです。

[図1] 11月15日の閃光現象
矢印で示した光点が小天体の衝突による閃光。撮像動画から該当フレームを切り出した処理前の画像。撮像:宮原正育氏(北海道、28cm)
[図2] 大赤斑周辺の様子
大赤斑は周囲を暗部で囲まれ、前方にはSTrBが伸びる。左上に大きな永続白斑BAが見える。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
[図3] NEB北縁の活動
中央の濃いバージの前後でNTrZにストリークが発達し、再びNEBが幅広くなっている。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)
[図4] STBnジェット暗斑群の生成
STBの前端部が崩壊して、ジェットストリーム暗斑群に変化する様子。暗部の北側を進んできた別の暗斑群が加わって、混沌とした状況になっている。

土星

11月中旬以降のスポークの報告は、22日のティジャーノ・オリベッティー氏(タイ)と26日のエリック・シューセンバッハ氏(オランダ領キュラソー島)の2件でした。 これまで同様、円形で土星本体の右側(環が公転で前面に回り込んでくる側)で、オリベッティー氏の画像では2個捉えられています。

土星本体に大きな変化は見られません。 図4は環を西矩(6月)の頃と比べたものです。 半年の間に太陽と地球の位置関係が変わり、環は少し幅広くなった一方、かなり暗くなっています。 また、本体や環の影の見え方にも違いが見られます。


[図5] 土星の環の見え方の変化
西矩の頃(左)に比べると現在(右)は、地球との傾きが増して環が開いた一方、太陽との傾きは減少したせいで暗く見えている。また、土星本体の縞の位置や、本体と環の影の見え方も大きく変化している。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)

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