天文ガイド 惑星の近況 2024年3月号 (No.288)

堀川邦昭


木星は12月31日におひつじ座で留となり、順行に戻りました。 土星はみずがめ座を順行しています。 12月は概ね暖かく、冬とは思えない日もありましたが、シーイングはとても悪く、観測中に心が折れそうになることもしばしばでした。

ここでは1月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

大赤斑(GRS)はまだ少し淡いのですが、明るいオレンジ色が鮮やかです。 周囲の暗色模様が淡化して明るいゾーンに戻り、再びよく目立つようになりました。 ところが年明け早々、大赤斑後部のSEB南縁が盛り上がり、大きく立ち上がったフックが形成されつつあります。 今後、準循環気流に発展するかどうか注目です。 経度は11月中、II=46°で停滞していたのですが、12月に入って急激に後退し、II=50°に達しています。

永続白斑BAは再び輪郭が失われて不明瞭になってしまいました。 II=10°付近に位置しているのですが、後方に伸びる南温帯縞(STB)が目立つだけで、BA本体はまったくと言っていいほど見えません。 高解像度での画像で中心核に相当する部分が、薄茶色の小暗斑として認められるのみです。

大赤斑後方のSEBでは白雲の活動領域であるpost-GRS disturbanceが活発です。 12月はII=100°付近まで乱れた白雲が広がり、活動域の長さは以前の約2倍になりました。 この区間を除くとSEBは概ね暗いベルトで、暗灰色の中央組織が目立っています。 SEB南縁は起伏に富んでいて、ジェットストリームに乗って後退する暗斑やリングが数多く見られます。 12月後半、II=240°の南熱帯(STrZ)中に大きな暗斑が出現して注目されています。 元々はSEB中にある赤茶色のバージ(barge)南側のベルト南縁にできた小さな膨らみでしたが、12月に入ってしだいに大きくなり、STrZに飛び出した大きな暗斑に発達してしまいました。 暗斑は東西に長い形で後方にスロープが伸びてSEBに連結しています。 昨年8月に話題になった「ヘビ模様」のようなパターンですが、あまり似ていません。

北赤道縞(NEB)ではII=172°にある大きなバージを中心に再び拡幅が始まっています。 拡幅活動の引き金となったNEBのリフト領域は、1日当たり-1.5°の割合で前進しながら、後方のNEB北縁を乱していて、II=70°後方ではNEBが幅広くなっています。 また、11月に一旦しぼんで細くなっていたバージ後方の領域も、再び北縁が膨らんで幅広くなりました。 そのため、現在の拡幅区間はII=70°からII=215°にある白斑WSZまでの約140°に及んでいて、今後、さらに拡幅が拡大すると予想されます。

今年木星面では閃光現象が相次いて観測されましたが、年末にさらに2件の閃光が海外から報告されています。 ひとつは12月28日23時52分に木星の左リムのNEBで発生し、プエルトリコのエフライン・モラレス・リベラ(Efrain Morales Rivera)氏が眼視で捉えました。 さらにほぼ24時間後の29日23時56分に、コロンビアのアンドレス・アルボレダ(Andres Arboleda)氏が、北温帯(NTZ)中で発生した閃光の撮像に成功しました。 これらについてスペインのリカルド・フエソ(Ricardo Hueso)博士は、同じ小天体を起源とする分裂核による可能性を指摘しています。

[図1] 大赤斑と永続白斑BA
大赤斑は明瞭だが後部に大きく立ち上がったフックが形成されつつある。▼の位置にBAが位置するがとても不明瞭。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] STrZに出現した大暗斑
中央で横長の暗斑がSTrZをふさぐようにSEBから盛り上がっている。南側のSTBnに沿って数多くの暗斑が見られる。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)
[図3] NEBの再拡幅の進行
NEBの活動的なリフト(▼)が前進するにつれて、後方のNEB北縁が乱れて拡幅が進行している。1月初めには広範囲に渡って幅広くなってしまった。

土星

観測条件が厳しくなり、観測数はめっきり少なくなってしまいましたが、土星面は落ち着いた状況にあります。 環も本体よりもかなり暗く、本体の影が右側の環に大きく落ちていますが異常はなく、当該期間のスポークの報告もありませんでした。

伊藤氏(愛知県)は彼自身の過去の画像を精査して、7月29日の画像にスポークが捉えられていることを発見しました。 画像と動画を見ると、土星の中心から3時半ぐらいのところのB環上に小暗斑が見られ、位置や形状からスポークである可能性が高いと思われます。 今シーズンのスポークは8月12日にフランスのペリエ(Christophe Pellier)氏によって最初に報告されましたが、伊藤氏の観測はその14日前で、最も早い観測と思われます。

[図4] 7月29日のスポーク
△の先にスポークと思われる小暗斑が見られる。右上は拡大強調画像。今シーズンで最も早いスポークの観測である。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)

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