おひつじ座の木星は1月22日の東矩を過ぎて、夕暮れの南天高く見えています。 観測シーズンは終盤に入りました。 みずがめ座の土星は南西天低くなり、観測シーズンは終了です。 あとは2月末の合を待つばかりとなっています。
ここでは1月末までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。
新年早々、大赤斑(GRS)の周囲で新たな現象が始まりました。 昨年暮れの大赤斑は、アーチや南熱帯紐(STrB)といった暗色模様が淡化して、すっきりとした姿に戻っていました。 しかし、今年に入ると赤斑湾(RS bay)後端部が盛り上がり始め、5日には大きく立ち上がって先端がカギ型に曲がった独特のフックに成長しました。 南赤道縞(SEB)南縁を後退するジェットストリームが大赤斑後方を回ってUターンし、南温帯縞(STB)北縁を前進するジェットストリームと結合する準循環気流が形成されたことを示しています。 翌6日にはフックの先端が大赤斑の前方に出て、新たなSTrBとして伸長を始めました。
その後、STrBはSTBの北側に沿って1日当たり約2.5°のペースで伸長を続け、II=350°にある永続白斑BAを追い越して、長さ60°もある濃い縞模様となりました。 一方、フックは1月末に後方に流れた形に変形して、準循環気流の流れが維持されているかどうか、怪しい状況となっています。 昨年の合の間に発生した準循環気流は、ひと月程度の活動で消失してしまいました。 今回も短命に終わるかどうか、注視する必要があります。
大赤斑の経度はII=50°で、年末とほとんど変わっていません。 明るいオレンジ色ですが、昨年の暗色模様やフレークの影響なのか、少し淡くなりました。
大赤斑後方のSEBではpost-GRS disturbanceが活動的で、II=100°付近まで白斑や暗柱などで乱れています。 II=240°の南熱帯(STrZ)にできた大きな暗斑は、東西に伸びて少し淡くなりましたが、まだよく見えています。 12月頃からSEB南縁を後退するリング模様が再び増えてきました。 今後フレーク活動が活発になる可能性があります。
北赤道縞(NEB)では、ベルトの北縁が拡大して幅広くなる拡幅現象が進行中です。 先月号で書いたように、拡幅活動はNEB内部を前進する活動的なリフト領域(以下、拡幅リフトと呼びます)によって引き起こされていて、拡幅領域は拡幅リフトを追いかけるように前方へ広がっています。 拡幅リフトはII=0°付近まで進んでいて、II=70〜110°の拡幅主要部とは少し離れてしまいましたが、1月下旬にはII=10°の北熱帯(NTrZ)に大きな暗斑が出現し、拡幅がさらに前方へ広がる兆候が見られます。 一方、11月に拡幅した後方の領域は北縁が痩せて、あまり幅広く見えなくなってきました。 現在、ベルト北縁を活性化させるのは前述の拡幅リフトしかなく、NEBを全周で拡幅・維持するにはパワー不足なのかもしれません。
[図1] 大赤斑とその周辺 |
大赤斑の前方に濃いSTrBが伸びる。フックは変形して後方に流れた形になっている。NTrZには大きな暗斑が形成されている。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm) |
[図2] フックの形成とSTrBの伸長 |
年明けと共に大赤斑後方にフックが形成され、前方に濃いSTrBが伸長する様子。STrBの長さは1月末には60°に達している。 |
[図3] NEB拡幅域の全容 |
左端は「拡幅リフト」、右端に拡幅後端となる白斑WSZが見える。中央部分が拡幅主要部でかなり幅広いが、後方では少し痩せている。拡幅リフトの後部のNTrZには大きな暗斑が形成されていて、拡幅域が拡大する兆候が見られる。 |
シーズン最後の報告は、1月17日の伊藤氏(愛知県)の画像でした。 土星本体では大きな活動はありませんでしたが、環で12年ぶりにスポークが観測されて話題となりました。
合は2月29日です。 3月末には日の出前の東天に昇るようになりますが、春先は地平線と黄道の傾きが小さいので、高度の上昇は鈍く、日の出時の高度が30°を越えるのは5月に入ってからとなります。 環の消失の前年となるので、極めて細くなった環の見え方や、衛星とその影が土星を経過する現象など、レアな現象が多く見られると期待されます。
[図4] 今シーズンの土星 |
2023年6月から11月までの土星。8月は衝効果のため環が明るい。また、衝の前は環が狭く、衝後は幅広く暗い。本体や環の影の位置や大きさにも注目。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)、堀内直氏(京都府、41cm)、渡辺真一氏(新潟県、35cm)、鶴海敏久氏(岡山県、35cm)、石橋力氏(神奈川県、31cm)、伊藤了史氏(愛知県、30cm) |
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