天文ガイド 惑星の近況 2024年5月号 (No.290)

堀川邦昭


木星はおひつじ座を順行中で、日没後の南西天高く見えています。 観測シーズンは終盤となり、この先は日に日に高度を下げていきます。 明け方の東南天には火星が昇るようになっています。 しかし、日の出時でも高度は10°ちょっとで、視直径はわずか4秒、観測はまだ厳しいようです。 土星は2月29日に合となり、観測はお休みです。

ここでは2月末までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

1月初め、大赤斑(GRS)後方にフックが形成され、南赤道縞(SEB)南縁のジェットストリームが大赤斑後方でUターンし、大赤斑前方の南熱帯(STrZ)に流れ込んで、濃い南熱帯紐(STrB)を伸長させる準循環気流の活動が始まりました。 フックはとても顕著で、安定した活動が数ヵ月続くと思われたのですが、1月29日以降、突然不安定になって崩れ、2月上旬にはなだらかなスロープになってしまいました。 これまでの例では、フックが消失すると暗物質の供給が絶たれてSTrBは急速に淡化します。 しかし、今回はスロープがSEBに接する所でジェットストリームが間欠的に分岐し、スロープを這いあがってSTrBに流れ込むという、昨年秋頃のパターンに戻ってしまいました。 そのため、STrBは現在も淡化することなく伸長を続けていて、長さは2月24日の時点で140°に達します。 この状況がいつまで続くかわかりませんが、暗物質の供給が絶たれて淡化するか、それともフックが再生して第2波の活動が始まるか、3月後半〜4月初めがヤマ場と筆者は考えています。

2月の大赤斑はII=50°でほぼ停滞していました。 SEB南縁を後退するリング模様との会合が繰り返され、小規模なフレークが頻繁に発生しています。 長径は11.6°で小さくなったまま変化ありません。 また、画像では目立たないのですが、眼視では以前より淡く不明瞭になったと筆者は感じています。 このような変化はフレークだけでなく、周囲の暗色模様の活動にも影響されていると思われます。

永続白斑BAはII=340°に進み、大赤斑からだいぶ離れました。 相変わらず不明瞭で、輪郭はなく、中心にある薄茶色の核で存在がわかるのですが、高解像度の画像でないと難しいようです。 BAの後方には南温帯縞(STB)のセグメントが大赤斑の後方まで長く伸びています。 BAの前方には別のSTBのセグメントがあり、前端からジェットストリーム暗斑が多数放出されています。

北赤道縞(NEB)では着々と拡幅が進んでいます。 拡幅活動を引き起こしているNEB内部のリフト領域はII=300°付近へと進み、ベルト北縁ではII=10°にある膨大部から大きな暗斑が生成されてNEB北縁を乱しながら北熱帯(NTrZ)を前進し、北緯20°付近に新しいNEB北縁となるストリークを形成しています。 一方、先に拡幅したII=100°台のNEBは幅広い区間と北縁が痩せて少し細くなった区間が交互にできて、北縁が大きく波打っているように見えます。 展開図(図4)を見るとわかるように、NEBは幅広く見えるところが多くなりました。 現在の活動が始まってから4ヵ月、初期の局所的な拡幅活動から1年余りを経て、NEBは拡幅へと向かっていることがはっきりしてきました。

[図1] 伸長するSTrBと活動的なNEB

STBのセグメントの下にSTrBの先端部が見える。フックが崩壊した後も、伸長を続けている。NEBはリフト活動で少し淡く見える。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)

[図2] フックの崩壊

顕著だったフックが1月29日頃から突然後方に流れてスロープに変化してしまった。SEB南縁の流れはスロープとの接点で分岐し、前方のSTrBに流れ込んでいる。

[図3] NEB拡幅の状況

II系300°台のNEB北縁で拡幅が進む様子。II=10°付近で大きな暗斑が生成され、NTrZに新しい北縁となるストリークが伸長している。

[図4] 木星面展開図(2月11日〜13日)

2月11日から13日までの7画像から作成した展開図。大赤斑は暗部に囲まれ、前方にSTrBが長く伸びる。NEB北縁は拡幅活動によって、乱れている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)、ジョン・ロザキス氏(ギリシャ、35cm)

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