天文ガイド 惑星の近況 2024年6月号 (No.291)

堀川邦昭、安達誠


日没後の西天では木星が日々高度を下げています。 3月初めは57°もありましたが、月末には34°で、まさにつるべ落としの感があります。 一方、明け方の東天には火星が昇るようになりました。 日の出時の高度はまだ15°ほどですが、いよいよ観測シーズンが始まりました。

ここでは3月下旬までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

年初に大赤斑(GRS)後方に形成されたフックは、ひと月余りで崩れてなだらかなスロープに変化してしまいましたが、南熱帯紐(STrB)への暗物質の供給はスロープを介して続いています。 しかし、大赤斑前方のSTrBはかなり濃淡があり、供給は不安定なことがうかがわれます。 STrBの先端は3月半ばにII=230°にある南温帯縞(STB)の前端付近に達し、全体の長さは約170°と、木星面の半周近くになりました。 その後はジェットストリーム暗斑群の活動にまぎれて位置がわからなくなっています。

3月末の画像を見ると、大赤斑後部のスロープが濃く立ち上がった形に変化しています。 フックが再生しつつあるようです。 第2波の活動が始まるのかもしれません。 詳細は次号で報告します。

北半球では北赤道縞(NEB)の拡幅活動が激しくなっています。 活動の引き金となったNEB内部の拡幅リフトはII=200°台へ進み、あと少しで木星面を一周します。 北縁の拡幅もそれを追うように前方へと広がって、今月はII=250〜300°の区間で独特の色調をした大きな突起や暗斑の形成や、北緯20°に新しい北縁となるストリークの伸長が見られます。 全周を見渡すと、NEBは大部分の経度で幅広くなっています。 まだ細く残っている部分も、しだいに埋められていくと思われます。

暗色模様に囲まれた大赤斑は、やや淡いものの大きな変化はありません。 経度はII=53°で、再び90日振動の後退期に入ったようです。 大赤斑後方に広がるSEBの白雲領域(post-GRS disturbance)は、2月後半から徐々に衰えて、静かになってきました。

永続白斑BAはII=325°付近に位置していますが、相変わらず不明瞭で、可視光では捉えることが困難です。 ただし、メタンバンドでは明るく目立っています。

II=235°の南熱帯(STrZ)にあった暗斑は、だいぶ小さくなりましたがまだ存在しています。 3月後半の画像では、暗斑の北から後方にかけてのSEB南縁が乱れ、大きな窪みが2つできていたのが目につきました。

[図1] 伸長するSTrBとNEB拡幅の全容
大赤斑から伸びるSTrBはうねって濃淡がある。左端近くに先端があり、長さは170°もある。NEBは中央で特有の暗斑や暗柱が発達し幅広くなった。左側には拡幅リフトがあり、北縁の拡幅が始まっている。撮像:ジョン・ロザキス氏(ギリシャ、35cm)、伊藤了史氏(愛知県、30cm)
[図2] フックの再生?
大赤斑は暗部に囲まれている。左の画像ではなだらかだった大赤斑後方のスロープが、左の画像では大赤斑に覆いかぶさるように立ち上がっている。フックが再生するのかもしれない。大赤斑後方のpost-GRS disturbanceは静かになりつつある。撮像:左) 伊藤了史氏(愛知県、30cm)、右) 宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

火星

2025年1月に衝となる小接近の観測シーズンが始まりました。 最初の観測は1月10日のクライド・フォスター(Clyde Foster)氏(ナミビア)でした。 日の出後の青空の中での撮像でしたが、大きな模様は確実に捉えられています。 現在の視直径はまだ4秒台ですが、5月以降、じわじわと大きくなっていきます。

3月20日の時点のLsは220°で、南極冠の大きさは最大時の半分くらいです。 ローカル・ダストストームの起こりやすい時期になっていて、2月28日に南半球で発生が記録されました。 大きさが4秒の火星面で、これだけ鮮明にダストストームが記録されたことは驚きです。 画像をよく見比べると、Syrtis Major付近の模様の濃さが違います。 また、Syrtis Majorの付け根に当たる部分もダストストームが横断しているように見えます。

赤・緑・青・赤外による画像を調べると、ダストストームは南半球を西から東に移動したことが分かります。 残念なことに、他に観測はなく、これ以上の追跡はできませんでした。

南極冠はこの時期、ドーナツ状になっているのですが、画像でもそれらしい姿が見られます。 また、部分的な明るさのムラ、あるいは部分的なダストによる黄変も記録されています。 火星は今、ダストストームの活発な時期にあります。

[図3] ローカルダストストームの発生
下側の矢印が発生したダストストームを示す。前日の画像と比較すると、上の矢印の部分でも模様の形が変化している。撮像:クライド・フォスター氏(ナミビア、35cm)

前号へ INDEXへ 次号へ