天文ガイド 惑星の近況 2024年7月号 (No.292)

堀川邦昭、安達誠


5月に合となる木星は、日没後の西天低くなり、観測シーズンはほぼ終了しました。 一方、明け方の東天には火星に加えて、土星が昇ってくるようになりました。 4月12日には29分まで接近しています。

ここでは4月下旬までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

先月号で書いたように、大赤斑(GRS)の後部で濃く立ち上がった暗柱(フック)が再生しました。 フックは1月初めに形成され、大赤斑前方に濃い南熱帯紐(STrB)を発達させましたが、2月以降はなだらかなスロープになり、STrBも細く濃淡が目立つようになっていました。 しかし、3月末になると突然独特のカギ型に曲がった形状に復活し、STrBも新たに伸長を始めて、4月半ばには長さが約30°になりました。 南赤道縞(SEB)南縁のジェットストリームがフックを伝ってUターンする準循環気流の第2波の活動が始まったようです。

4月15日の画像を見ると、STrBの先端付近が赤みを帯びていて、メタンバンド画像でも明るく見えるので、この活動に伴ってフレークも発生したようです。

北赤道縞(NEB)の拡幅活動は、ほぼ木星面を一周しました。 しかし、NEBの太さは経度によってバラつきがあり、大赤斑の北側など、細いところもいくつか残っています。 また、通常の拡幅では、北熱帯(NTrZ)の白斑はNEBに取り込まれて、ベルト北縁に並ぶ小窓のようになるのですが、今回はほとんどがNTrZに露出したままです。 今回の活動は通常に比べると規模が小さいようですが、NEBのリフト活動はまだ活発なので、まだ変化が続く可能性もあります。

その他の木星面は大きな変化は見られません。 次に木星が昇るようになるのは6月中旬となります。 惑星サロンに書いたように、今年はSEBが淡化する可能性があります。 今のところその兆候はありませんが、過去には合の間に淡化が進んだ例もあるので、合明けの木星面には注意したいものです。

[図1] 再生したフックとNEBの拡幅状況
左) 大赤斑後部でフックが再生し、前方にはSTrBが伸長している。矢印で示したSTrBの先端部は赤みを帯びていて、フレークが発生したと考えられる。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) 右) NEBの拡幅活動は木星面をほぼ周回した。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)

火星

火星はまだ東天低く、視直径も小さいのですが、熱心に観測が行われています。 国内でも筆者が観測を始めました。

Lsは240°で、南半球の夏至が近くなりました。 火星は南に大きく傾いて、南極冠が見やすくなっています。 南極冠は一様ではなく、いつものように大きな割れ目ができています。 条件が悪く、はっきりした形までは分かりませんが、画像から見る限り例年通りの変化と言えます。 この時期はHellasの南にミッチェル山が見えるはずですが、まだはっきり捉えた観測はありません。 極冠はダークフリンジと呼ばれる暗帯に囲まれています。 部分的に見えにくいところができていますが、極冠の縮小と共に解消されていくことでしょう。

暗色模様では、Mare Tyrrehenum、Mare Cimmerium、Mare Sirenumの南側がいずれも淡くなっています。 極域からのダストの影響を受けているものと思われます。 ダストが晴れれば、本来の濃さに見えるかもしれません。 Solis Lacusは、今シーズンは濃く見えています。 Hellasはこの時期、明るく見えることは少ないのですが、3月から明るい傾向が続いていて、ロンズデール氏(Mark Lonsdale、オーストラリア)の赤外画像ではかなり明るく記録されています(図2)。

北半球は、目立った変化はなく、高緯度の薄暗い模様が赤や赤外画像で記録されています。 また、青画像では極域に白雲もわずかながら記録されています。

4月1に日にはフォスター氏(Clyde Foster、ナミビア)が、160W付近の南極冠内部からダークフリンジにかけてローカルダストストームを記録しました。 極冠の縮小期によく見られる現象ですから、これからも注意が必要です。

[図2] 明るいHellas
矢印で示した明るい領域がHellas。赤外画像。撮像:マーク・ロンズデール氏(オーストラリア、35cm)

土星

土星は合からふた月近くが経過しました。 地平と黄道の傾きが小さい東京では、日の出時の高度はまだ20°ですが、逆の関係にある南半球では40°に達します。 観測のほとんどが海外からですが、国内でも愛知県の尾崎公一氏が一番乗りで観測を開始しました。

環の傾きは3.5°に減少し、とても細くなりました。 6月末には2°弱となり、その後は増加に転じて11月には5°で極大となります。 一方、太陽に対する傾きは現在の6°から減少する一方で、年末には1.8°になります。 今年後半の環はとても暗くなるでしょう。

環の消失前年となる今年は、環の見え方の変化や、最大の衛星であるティタンの土星面経過現象などが見どころになります。

[図3] 細くなった土星の環
環の傾きは急速に小さくなっていて、わずか12日の間でも少し細くなったのがわかる。撮像:クライド・フォスター氏(ナミビア、35cm)

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