天文ガイド 惑星サロン2002年11月号 (No.2)伊賀祐一

木星のスケッチに挑戦しよう

木星を望遠鏡でのぞいたら、それを記録に残したいと思いませんか。手軽な方法ではスケッチを描くことです。でも、どんな熟練の観測者だって、最初からうまくスケッチを描くことはできません。

最初の頃は眼が慣れていないので模様がはっきりと見えません。筆者が高校生で惑星観測を始めた年に描いた稚拙なスケッチを図1に紹介します。当時の望遠鏡は10cm反射でしたが、左はスケッチを始めて6枚目のもので、ベルトは見えていないし、不規則に波打っています。大赤斑は当時はとても見えやすい模様でしたが、位置がでたらめですね。それでも右のスケッチのように36枚目になると、ベルトの位置も模様の形もそれらしく正確になってきました。観測を始めた1971年は、6月に南赤道縞撹乱(かくらん)が発生しており、8月には大きな白斑や暗斑が入り乱れている様子を観測できたわけで、とても幸運でした。この年は火星の大接近もあり、スケッチをひたすら描いていました。それだけではもの足らず、惑星についての書籍を調べたりしているうちにどっぷりと惑星観測にはまってしまいました。

惑星観測の大先輩である佐藤健氏(東亜天文学会元木・土星課課長)が、『100枚もスケッチをすると、惑星観測者として一応の水準に達する。』と惑星ガイドブックI(誠文堂新光社、1981)に書かれているように、とにかく何枚かスケッチを取ってみましょう。回数を重ねることで、どのような模様が見えるのか、どのように描写したら良いのか、次第にコツが分かってきます。

望遠鏡をのぞいたら、最初の20分間ぐらいは木星をじっと見つめます。頭の中に模様をしっかりとたたきこんでから、スケッチ用紙に模様の位置を書き取ります。それから細部に渡って仕上げを行います。美しいスケッチであるよりも、大切なことは見えている模様をいかに確実に記録するかです。そうなれば、その観測者のスケッチは貴重な現象の記録として評価されることでしょう。

現在はデジカメなどのCCDによる観測を行っている人が増えましたが、やはり眼視で見たイメージを大切にすることが重要で、そのことが観測としてのレベルを上げていると感じます。


図1 10cmによる木星スケッチ(1971年)
観測を始めた年に描いたスケッチで、枚数を重ねることが上達の道です。
筆者/10cmニュートン、TP6mm(x167)(拡大)

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