天文ガイド 惑星サロン2003年10月号 (No.13)伊賀祐一

火星撮影のフィルターワーク
冷却CCDカメラではフィルターワークが必要でしたが、ToUcam Proなどのカラー撮影ができるWebCamカメラを用いると惑星の色の再現に悩むことがあります。それはCCDに装着されているカラー分解フィルターが一般撮影用、特に人間の肌色の再現のために設計されているからです。赤外カットフィルターを入れないとRGB各色に赤外モレが起こりますし、それぞれの色波長域が重なっていることもあって、本当の惑星の色が再現できないことになります。

別な観点から火星観測を考えると、氷晶雲は青色で、黄雲は赤色と緑色での画像が非常に重要になります。高い山岳にかかる白い雲や朝霧・夕霧などと区別したり、黄雲を表面模様から検出したりする目的には、十分に注意を払ったフィルターによる観測が必要です。また、シルチス地方などは大気中の霞が時々晴れて、本来は青色では見えないものが暗く見えてくる『ブルークリアリング』という現象もあります。このように火星の観測にとっては、フィルターワークが大切になります。

私たちのメンバーで実際に火星のフィルター観測に取り組んでいる例を画像1で紹介します。様々なフィルターを使い分けていることが分かると思いますが、観測者がどのような現象をとらえたいのか、目的をはっきり持って取り組んでいます。この例の中で、近赤外画像(IR)は表面模様がコントラスト良く、しかもはるかに高解像度でとらえられています。これは1988年の大接近時にピック・デュ・ミディ天文台が撮影したIR画像を思い出させてくれます。また、ToUcam Proでも、逆に赤外カットフィルターを外して撮影した方が、色はきれいに再現できませんが、表面模様は良く写ってくれます。


画像1 火星のフィルター観測
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)、畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、新川勝仁(堺市、28cmSCT)、前田和義(京都府、35cm反射) (拡大)

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