スケッチが木星観測の主流だった頃、模様の中央子午線通過時刻観測(CMT観測)は経度を測る最も有力な手段でした。CMT観測は19世紀末からイギリスを中心に盛んになりドイツや他のヨーロッパ諸国でも取入れられていました。現在でも手軽に経度を測ることのできる有力な方法であることにはまちがいありません。
1978年、木星に接近するボイジャーを支援するためIJVTOP(International Voyager Jupiter Telescope Observation Program)という試みがなされました。ボイジャーの木星観測期間中、地上からも同時にCMT観測を行おうと世界中のアマチュア、プロ問わず木星観測者に呼びかけが行われました。当時の日本のアマチュア観測者達も数千もの観測を送りました。恐らくボイジャーの観測は地上からの観測が束になってもかなうものではなく、これといった成果もないまま十数年が過ぎようとしていました。
ところが1990年代半ば、イギリス天文協会の会報にドイツにIJVTOPを含めて世界中のあらゆるCMTデータを収集しているアマチュアがいるという話題が載っていました。ドイツのハンス・ヨルグ・メティグ(Hans Jorg−Mettig)さんです。メティグさんはドレスデン出身の惑星観測家で、大学で学んだ数学とコンピュータの知識を駆使して解析プログラムを自作して公開しています(http://jupos.privat.t-online.de/)。その野望は世界中の全てのCMTを集めて解析し尽くすことにあります。JUPOS - Database for Object Positions on Jupiterと名付けられたプロジェクトには日本からも1970年代以降に取られた数万個のCMTデータが送ってあります。
筆者は1998年にドイツを訪れた時、ドレスデンにメティグさんを訪ねました。ドレスデン市内のアパートの1階に自宅兼研究室があり、観測は電車で20分程のところにあるラデボイル市民天文台で行われています。数年前フライブルグに引っ越されました。
最近はCMTよりも画像から経度を割り出す方が多くなっています。最近はこの方面の解析も行われており、2000年3月に起こった永続白斑BEとFAの合体の様子などを詳細に追跡されています。
ドレスデンは旧東ドイツに属する地域です。西側(特にアメリカ)の木星観測者の情報は不足しているようでした。帰国後、筆者の持っている情報を送ってあげたら、20世紀初頭のドイツ、ベルギーの観測報告を送ってくれました。日本ではこれまで見ることのできなかったものばかりでした。
画像1 ハンス・ヨルグ・メティグ氏 (拡大) |
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