天文ガイド 惑星サロン2009年1月号 (No.76)堀川邦昭

ドリフトチャートの効能
●はNEB北部のバージ、○はNTrZの白斑を表す。同じ緯度帯でも、動き の異なる模様が混在する例。矢印で示した2つのバージは別のバージと 合体したり、速度が大きく変化しているのがわかる。

ドリフトチャートは、模様の位置データ(経度)をグラフ化したものです。大気中 の雲や渦で構成される木星面の模様は、発生と消滅を繰り返していますし、表面 を流れる風によって、時間と共に位置が変わりますので、グラブ化することで、 ひとつひとつの模様を識別し(同定)、その運動(経度変化)を追跡することが可能 になります。木星の継続的な観測がスタートした20世紀初頭から続く、伝統的な 解析手法のひとつです。

ドリフトチャートは、縦軸に日付(時間)、横軸に経度を取り、CMT観測や画像の 測定で得た個々の模様の経度をプロットすることで作成されます。個々の模様を 識別しやすくするために、各緯度帯毎に分割したり、模様によってマーカーの色 や形を変える工夫が必要です。通常の科学論文などでは、時間(T)を横軸に取り ますので、プロの眼には奇異に映るらしいのですが、木星面を切り取って日付順 に並べたイメージと同じなので、アマチュアにはむしろ感覚的に理解しやすい表 現方法です。

ドリフトチャートを作成すると、個々の模様の動きを識別できますので、模様の 自転周期を算出することが可能になりますし、画像を測定したデータであれば、 緯度情報を加えて、体系IIIに対する風速(m/s)を得ることができるようになりま す。また、本文中で述べたSTB南縁の暗斑群のような、通常とは異なる動きをす る模様を発見したり、図のように、移動速度の急激な変化を捉えたりすることも 可能です。

本文記事の中にさりげなく出てくる自転周期や風速の数値は、眼視によるCMT観 測や撮像された画像の測定を、ひとつひとつ地道に積み上げた結果として、得ら れるものなのです。


[図1] 2008年におけるNEB北縁周辺のドリフトチャート(拡大)
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