吾妻鏡には天文記録が208例もある(*1)といいます。その中に、建保3年11月20-
21日(1215年12月12-13日)に、金星がやぎ座γとδに接近した記録(*2)がありま
す。20日にやぎ座γ、21日にはδに接近し、「廿日、乙亥、晴、戌刻、太白迥に
哭星第一星を犯す(七寸の所)と云々」、そして、「廿一日、丙子、亥刻、太白哭
星第二星を犯す(七寸の所)由、陰陽の少允親職御所に参じて申すの間、将軍家南
面に於て之を御覧ず」(*3)と記録されています。興味深いのは、21日の記録です。
源実朝が御所の南面からやぎ座δに接近する金星を観望しています。「幕府のハ
レの場である寝殿の南面」(*4)から見たことも重要です。当時、このような天変
は凶兆であり、見ないようにするのですが、実朝は、重要な場所である南面から
見たのです。もしかすると、実朝は天文ファンだったのかもしれません。
今年の暮れ、12月27日に金星がやぎ座γ、28日には、δに接近します。源実朝が
観望した「太白哭星第二星を犯す」(注)と似た光景です。金星と地球の会合周期
の5倍が、ほぼ8年に相当するので、短期的には8年周期で、暮れに、夕方、金星
がやぎ座γδに接近するのを見ることが出来ます。次回は、2016年12月27-28日
になります。
注) 両星が0.7度以内に接近する場合は「犯」、それより離れている場合は「合」
と呼びました。
参考文献:
(*1)(*2)斉藤国治 著「古天文学の道」、原書房1990年5月24日第1刷、P50、P59
(*3)龍粛 訳註、岩波文庫「吾妻鏡(四)」、岩波書店1997年3月14日第6刷、P125
(*4)五味文彦 講演「実朝の文化空間」 鎌倉近代史資料 第十一集 実朝の風景、
鎌倉市教育委員会、p44
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