天文ガイド 惑星サロン2011年1月号 (No.100)田部一志

木星面閃光現象に思う

16年前、シューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突しました。千年に一度と 言われた珍しい現象を目撃でき、幸運を素直に喜んだものでした。一昨年(2009 年)、微小天体の衝突痕が小規模とはいえ見つかった時も、我々は運が良いのだ と思っていました。ところが、昨年(2010年)は明らかに木星表面で起こった閃光 が、痕跡は残りませんでしたが2回も観測されたのです。いくらお人好しの木星 観測者でも、これは珍しくない現象ではないのかと思うようになりました。この ような、痕跡を作らない小天体の衝突による閃光現象は、年に1−2回は起こって いても不思議ではありません。これまでの記録を漁ればもっと発見できるかも知 れないのです。

撮った動画を、閃光があるかも知れないという目で見直せば、何か発見できる可 能性があります。一人の観測だけで不安な場合には、仲間の記録が頼りになるこ ともあります。しかし、サイズの大きな非圧縮の動画は保存には向かないので、 多くの観測者は、処理が済むと動画を廃棄してしまっています。後悔先に立たず とは正にこのことです。この経験を機に、今一度自らの観測をいい意味での予見 を持って見直そうという機運が高まれば、それはそれで収穫なのかも知れません。

一方、観測条件の良い時期だったとはいえ、8月の閃光現象を捉えた観測者が、 国内に4名もいたということに、世界に冠たる日本のアマチュア天文家の底力を 見た思いがしました。4人の方々と月惑星研究会は、これまで直接のお付き合い はありませんでしたが、会の外にも熱心な観測者がたくさん居ることが、諮らず も明らかになりました。多くの方々に観測記録を見直していただき、もしも今回 のような突発現象を見つけた場合は、月惑星研究会でも国立天文台でも構わない ので是非報告してください。木星付近では、微小天体の密度がこれまでの予想よ り高いのかも知れないし、この数年だけ、衝突頻度の高い領域に木星が差し掛か っているのかも知れません。今後、この種の観測結果から新たな知見が得られる ことを、大いに期待していいと思います。


[図1] 今年8月の閃光現象
撮像:立川正之氏(熊本県、15cm)
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