吾妻鏡には源実朝が明月を見たり、金星とやぎ座δの接近を見た記録が残ってい
ます。鎌倉は東北西の三方を山に囲まれているため、月が東の空から昇ってくる
ところは山に隠されてしまいます。そのため、源実朝は東の空の視界が良い海の
上に出て、明月を眺めのるが好きだったようです。建保2年2月14日(1214年3月26
日)には、昼間、森戸海岸で弓術の小笠懸を行いました。そして、「漸く黄昏に
及びて、明月の光を待ち、孤舟に棹さして、由比濱より還御と云々」と、月が昇
るのを待ってわざわざ舟で由比ガ浜へ行き、帰路についています。きっと、舟か
ら月を楽しんだのでしょう。この晩は月齢14で翌日には部分月食がありました。
「源実朝は天文ファン」でしょうか?そう思って金塊和歌集を調べると、月が80
首、星が9首詠まれていました。金塊和歌集には719首あるので、月や星が詠まれ
た歌の比率は12%強になります。
以下で、金塊和歌集から四季の月をご紹介しましょう。
春は「風さわぐをちの外山に雲晴れて櫻にくもる春の夜の月」と詠んでいます。
桜の上におぼろ月が出ている光景が目に浮かびます。おぼろ月はのどかですが、
透明度が良くないために悩まされることもあります。
「さ夜更て蓮のうき葉の露の上に玉とみるまでやどる月影」は、夏の歌です。夜
更けに、望遠鏡の筒が露に濡れ<その露が月の光で光っているような印象です。
秋の象徴は、中秋の名月です。「久堅の月の光しきよければ秋のなかばを空に知
るかな」、透き通った空と月明かりはおぼろ月の春とは好対照です。秋には透明
度だけでなく、シーングにも恵まれることがあります。
冬の夜、深々と冷え込み、望遠鏡の筒に霜が張り付くことがあります。「さ夜更
けて雲のまの月の影見れば袖にしられぬ霜ぞ置きける」と源実朝が詠んでいます。
源実朝の和歌を天文ファンの感性で鑑賞すると面白いのではないでしょうか。
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