天文ガイド 惑星サロン2012年8月号 (No.119)堀川邦昭

NTBを耕すアウトブレーク

NTBsのジェットストリームは、北緯23.8°の北温帯縞(NTB)南縁を流れる木星面 で最速のジェットストリームです。風速は通常でも+120m/s、後述するアウトブ レーク発生時には+160m/sに達します。通常は、斑点などの模様がほとんど見ら れないため、地上からの検出は難しいのですが、数年から数十年に一度、激しい 活動が起こって流れが可視化されます。これがNTBsジェットストリームのアウト ブレーク現象(NTBs jetstream outbreak)です。1880年にイギリスのデニング (W.F. Denning)によって発見されて以来、北温帯流-C(North Temperate Current C)、通称「カレントC」と呼ばれる現象として知られており、今回は13 回目の活動となります。

典型的なアウトブレークの活動は、淡化したNTB中に出現する明るい白斑で始ま ります。この白斑はメタンバンドで極めて明るい高高度の雲で、木星内部からの 噴出しを思わせる模様です。先行白斑(Leading Spot)と呼ばれ、体系Iに対して -5°/day(自転周期で9h46m〜47m)という超高速で前進します。その後方では暗斑 群が出現します。体系Iに対して-1°/day(自転周期で9h49m)と、先行白斑よりも ゆっくり前進し、この速度差によってNTBの濃化が広がって行きます。暗斑群は 時に大きく発達することがあり、「まるでNTBを耕しているようだ」という表現 がピッタリです。発生から2〜3ヶ月でNTBは全周で濃化復活します。アウトブレ ーク後のNTBは赤みが強くなり、NTrZは著しく暗くなることがあります。

1970年から1990年までの間、アウトブレークは5年おきに起こっていました。そ の後、17年ほどの休止期間を経て2007年に再発したのですが、2012年の今年に再 び観測されたので、5年サイクルは維持されているようです。

今回の活動は非常に大規模のようですが、合に重なって重要な時期に観測がでな かったのは、大変残念に感じます。

[図1] 耕されつつあるNTB
1990年のアウトブレークによって濃化中のNTB。筆者のスケッチ

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