天文ガイド 惑星サロン
2017年4月号 (No.175)
安達誠

過剰倍率の効用

惑星観測にはある程度の高倍率が必要であることは、観測を経験された方はご存じでしょう。 私が初めて木星観測をした時は15p反射で179倍の倍率で観測しました。 経緯台での眼視観測は、高倍率にすると日周運動で移動する惑星を追跡しながらの観測となり大変でした。 この望遠鏡の追跡操作は赤道儀になって解消されましたが、それまでは本当に大変でした。

地球から遠ざかり、小さな視直径になった火星観測に20p、400倍を使っておられた観測者もありますが、昔のアイピースで400倍をかけることは相当無茶な話だと感じていました。 もちろん観測に使うのは、いろいろな条件があって難しいものです。

最近はアイピースの性能もよくなりました。 スケッチの例をあげておきますが、一番小さいものは視直径6秒の火星を30p400倍で見たものです。 模様は何とか見えますが、火星が明るく(表面輝度が高いため)形まではっきり見るのは、よほど気流が良くないと困難です。 中間の大きさは600倍ですが、火星の場合、模様が最もよく見えます。 もちろん気流が悪いとダメですが、いろいろ試すと模様は一番よく見えるようです。 800倍に上げると模様のコントラストが落ちて、模様は見えにくくなります。 焦点距離2mだと限界でしょう。 しかし火星の白雲は、光量が落ちるため見えやすくなります。 例に挙げたスケッチで見られるように、周辺部の白雲の位置や広がりはがぜん見えるようになるのです。

気流が悪いと、形や広がりの見極めにかなりの時間を要しますが、それでもきちんと見ることができます。 眼視観測にはいろいろな倍率で見ることが必要なようです。

[図1] 倍率による火星の見え方の違い
左から400倍、600倍、800倍

前号へ INDEXへ 次号へ