循環気流が初めて観測されたのは1920年のことです。この時、木星面では今世紀最初のSEB攪乱が起きていて、STrZには大南熱帯攪乱(STrD)が存在していました。この年2月、SEBsに高速で後退する2個の暗斑が出現しました。そして、先頭の暗斑が3月20日にSTrD直前で突然消失すると、わずか3日後にSTrD直前のSTBnに小暗斑が現れ、前とは逆向きに前進し始めたのです。後続の暗斑も同じよう経過をたどり、STBnの暗斑と入れ替わってしまいました。当時の観測者達は暗斑がSTrD前端でUターンしたのではという疑いを持ちましたが、小さな暗斑がわずか数日の間に自転周期で4分半、風速にして秒速90mも変化するなどあり得ないと思われたらしく、BAAのピーク(Peek)によって正式に発表されたのは1926年のことでした。
その後、1928年のSEB攪乱でも多数の暗斑がSEBsに出現しましたが、循環気流は確認されませんでした。また、1931年にも数個の後退暗斑がSTrD前端近くで消失して大いに注目されたのですが、STBnには何も現れず観測者達を大いに落胆させました。
しかし1932年3月初め、SEBsを後退する3つの突起がSTrD前端で消失すると、STBnに短い灰色のstreakが現れ、前進を始めました。遂に循環気流が確認されたのです。1933〜34年には集中的な観測で暗斑が実際にUターンする様子が捉えられました。探査機も画像処理もなかった時代に、眼視観測だけでこの現象を明らかにした当時の観測者達の執念には敬服させられます。
1935年になるとSEBが淡化しSTrDも1939年に消失したため、以後この現象は長く確認されないままでした。今回の観測は撮像技術の発達だけでなく、STrDとSEB攪乱が同時に発生するという幸運が重なった結果と言えます。B.M.ピークは彼の著書の中で次のように述べています。「1940年にSTrDが消失したため、この現象を再び捉える機会はほとんどなくなったと思われる。・・・ひとつだけ期待できるのは、やがてSTrZが新しい攪乱を生み出すかもしれないという事である。」73年の時を経て再び循環気流が観測されたことを彼が知ったら、さぞ感慨無量のことでしょう。
[図] 1920年の循環気流のドリフトチャート (The Giant Planet Jupiterより)(拡大) |
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