天文ガイド 惑星サロン2007年10月号 (No.61)田部一志

SEB攪乱観測史 最初の記録

現在知られている木星面で最も激しい現象である「SEB攪乱」が観測史上初めて観測されたのは90年ほど前の1919年のことでした。1919-20シーズンの衝は1920年2月2日でしたが、衝の2ヶ月前12月8日にはSEBの異常として記録されています。前のシーズンにはSEBが淡くなっていく様子も捉えられています。当時の観測者が経験したことのない現象を目の当たりにして驚いている様子がBAA紀要に書かれています。

(Vol.26 Part3より) SEBは広く2本に分かれていたが、シーズン初期を除くと南組織は北組織に比べるとずっと淡く、2月(1919年)中旬以降はほとんどの経度で南組織が消失した。3月から4月にかけては、わずかな斑点と暗条を除いてSEB南組織はほとんど見られなくなった。

(Vol.26 Part4より) シーズンの前半はSEBは北組織だけが見られ南組織は全く見られず10月から11月(1919年)にかけてこの部分は木星面で最も明るかった。しかしながら12月第2週になると明らかな復活の兆候が現れた。始まりは北組織の南縁に斑点が出現することであったが、2月にはおびただしい数の斑点によって埋め尽くされた。H.トムソンは2月の状況について「最も異様な様相を呈している。」と述べている。

発生した多くの斑点はSEBの南組織では後退し北組織では前進することになります。後退する斑点は有名な循環気流に乗ってSTrZの南側を後退するという現象が起こりました。これも史上初めての記録となりました。

木星面では今現在SEB攪乱が起こり発生した斑点の一部が循環気流に乗って後退する現象がリアルタイムで観測されつつあります。1919年の木星と同じ現象が今再現しているわけですが、違いは21世紀に生きる我々は1920年代とは隔絶した分解能(時間・空間とも)のイメージを取得する手段を持っています。新たな現象が暴かれる可能性もあります。

[図] 最初のSEB攪乱 (tg0710sfig1.jpg)
1920年2月27日 H.Thompson (The Giant Planet Jupiterより)


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