天文ガイド 惑星サロン2008年5月号 (No.68)堀川邦昭

大赤斑の寿命は?

大赤斑が注目されるようになったのは1878年からですが、それ以前にもしばしば観測されていて、最も古い記録は、1831年に描かれた赤斑孔のスケッチです。ところが、その遥か昔の17世紀に「カシニの斑点」と呼ばれるよく似た斑点が観測されていて、一般向けの天文書では、大赤斑は300年以上も存続していると書かれています。


[図] 大赤斑とカシニの斑点
(左) カシニの斑点(1672年) (中央) 初期の大赤斑(1879年) (右) 現在の大赤斑(2007年、Go)(拡大)

これは本当なのでしょうか? 実際には、カシニの斑点が最後に観測された1713年以降、大赤斑は118年間、行方不明なのです。その間、大赤斑やそれに類似の模様の記録はまったくありません。それに大赤斑とカシニの斑点は、サイズや動きがかなり異なっています。大赤斑は時代と共に小さく、自転周期は長くなる傾向にあり、現在は長径17°、自転周期は9h55m40s程度です。一方、カシニの斑点は長径が約12°、自転周期9h56mと、大赤斑よりも小さく、動きも遅いのです。現代の大赤斑を過去に遡っても、カシニの斑点には一致しません。したがって、両者は別の模様である可能性が高いのです。

大赤斑の生い立ちを考える時、大赤斑のミニチュアであるSTBの永続白斑が参考になります。永続白斑は1940年頃、STZが3つに分断されることで誕生しました。その後の成長過程は大赤斑によく似ています。

これを参考にすると、現在の大赤斑は、18世紀に南熱帯攪乱のような現象によってSTrZが分断されることで誕生したと思われます。STrZの長大な区間が縮小することで明るくなり、さらには赤さを獲得することで、注目されるようになったのではないでしょうか。カシニの斑点は、1世代前の大赤斑の最後の姿で、1713年以降まもなく消失してしまったと思われます。大赤斑は今後も縮小と減速を続けて、将来はカシニの斑点のようになってしまうのかもしれませんね。

前号へ INDEXへ 次号へ