前編のとおり、メタンの吸収波長は889nm以外にも619nm、727nmなどがあります
が、889nmほど吸収量が大きくなく、コントラストの高い画像が得にくいことも
あって、アマチュアでの撮像実績はほとんどありません。ただ、吸収量が小さい
ので木星の下層まで光が届くことになり、プロの観測では下層の雲の分布を知る
手法として、この波長を利用した撮像が行われています。文献でこれを知った私
は、早速、その方法での撮像を試してみました。
実際には、727nmの干渉フィルターを入手することが困難なので、市販品で手に
入る730nmのフィルターを使用しました。この波長だと0.1秒程度の露光により、
実用的な画像を得ることができます。ただし、波長が少しずれている分、メタン
の吸収と雲の反射率の両方の影響を受けた明暗模様が記録されてしまいます。
次に、メタンの吸収の影響を受けない750nmで撮影します。この画像には、雲の
反射率の影響しか記録されません。最後に、727nmの画像を750nmの画像で割り算
すると、共通した雲の反射率の影響が除かれ、演算後の画像には、メタンの吸収
量に応じた明暗のみが残ります。これが、727nmでのメタンバンド画像になりま
す。
右の画像はこの方法で処理したもので、大赤斑、EZ、両極のヘイズなどが明るく
写り、889nmと同じ基本的な特徴を見ることができますが、異なる点もあります。
889nmではSEBとNEBは同程度の暗さですが、727nmではSEBの方がやや明るく写り
ます。断定はできませんが、SEBの方がNEBよりやや高い位置に雲がある可能性が
考えられます。
ただ、全体的にムラが目立ち、期待した高精細のメタンバンド画像を得ることは
できませんでした。輝度値を考慮せず単純に割り算したため、両画像のわずかな
ムラも変動成分として抽出されてしまったことが原因です。
技術的にはまだまだ詰める要素がありますので、今後もチャレンジを続けていき
たいと考えています。
|