太陽との合からしばらく経つと、日の出前の地平線近くに木星が姿を現します。
高度10°にも満たない木星を薄明中に観測するのは、非常に厳しいのですが、新
しいシーズンの観測第1号の栄誉を手に入れるため、観測者同士でちょっとした
競争が起きます。筆者は合から15日目に観測したことがありますし、過去にはわ
ずか9日目でスケッチを取った強者もいました。
来年の合は5月ですが、観測条件はあまりよくありません。図は合から30日後の
日の出時における木星の位置で、高度が季節によって大きく変化するのがわかり
ます。夏〜秋は20°を超えますが、春先は10°そこそこで、2倍以上も違うので
す。理由は次の二つです。@春は黄道の傾きが小さく、太陽から離れても高度が
上がらない。A日の出が日増しに早くなるので、離隔の増加分が相殺されてしま
う。一方、秋から初冬にかけては天候もよく透明度も高いので、地平線近くの木
星を見るのに一段と好都合です。
昨年の一番乗りはフィリピンを観測拠点にしている阿久津富夫氏でしたが、これ
は赤道に近い分@の影響が小さいことが要因としてあげられます。また、最近は
撮像技術の向上により、日中でも観測が可能になりつつあります。今年の一番乗
りは最上聡氏で、合から18日後、撮像時刻はなんと午前10時でした。今後、競争
がどこまで白熱するか、予想もできません。
余談になりますが、かつて木星を合の直後に観測する千歳一遇のチャンスがあり
ました。2001年6月21日にアフリカで見られた皆既日食は、木星の合からわずか
7日後のことでした。皆既の最中には近くに木星が輝いていたはずなので、望遠
鏡を向ければ縞模様が見えたかもしれません。成功すればまさにギネスものです。
この日食は、日本からもたくさんの人たちが遠征していましたが、さすがに日食
そっちのけで木星を観測した人はいなかったようです。
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