私の持っている一番古い火星の写真は、1909年の大接近の時にヤーキス天文台で
撮られたもので、白揚社から1958年に刊行された、フォン・ブラウン、W.レイ共
著、小尾信弥訳の「火星探検」という本に掲載されています。多分、世界最大の
102cmの屈折望遠鏡で撮られたのではないかと思います。当時のフィルムは赤に
対する感度が低かったはずですが、大シルチスやサバ人の湾が良く写っています。
古本屋でこの本を入手した1971年は、やはり火星の大接近の年で、ちょうど私が
10cmで火星を撮り始めたころでした。1909年に比べてフィルムが進化したとはい
え、10cmでは大接近でも残念ながらそこまでの写真は撮れませんでした。
その後、コンポジット法や赤に強く微粒子のテクニカルパンの発売、また望遠鏡
を21cm、31cmとグレードアップしたことで、シーイングが良ければどうにか肩を
並べる火星像を写すことができるようになりました。
しかしそれも束の間、1990年代になると、冷却CCDなどによるデジタル画像が主
流となって、銀塩フィルムによる写真観測はすたれてしまいます。テクニカルパ
ンも2005年頃に発売中止となってしまいましたが、何とか100年後の火星写真を
残したいと思い、手持ちのテクニカルパンを冷凍庫で保存しておきました。100
年目の2009年は火星の衝がなかったので、結局、2010年になって最後のテクニカ
ルパンで準小接近の火星を撮り、101年を隔てた火星を見比べることが出来まし
た。
2006年1月には訳者の小尾先生に会う機会があり、本に「なつかしい大昔の火星
と火星旅行の本、火星旅行の実現まで生きて下さい!!」と、書いていただきまし
た。ヤーキス天文台の写真から約50年後に本が出版され、それからさらに50年経
って最後の銀塩写真を撮ることができたことに、深い感慨を覚えます。
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[図1] ヤーキス天文台による1909年の火星 |
1909年9月24日と29日の写真で、左ではサバ人の湾、右では大シルチスが見られる。白揚社刊、「火星探検」より。 |
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[図2] 101年後の火星写真 |
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最後のテクニカルパンにより2010年2月23日に筆者撮影。 |
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