天文ガイド 惑星サロン2015年1月号 (No.148)堀川邦昭

シーイングのはなし

月惑星研究会の例会などで観測仲間と話していて、よく上る話題のひとつに「木星が南中 を過ぎると急にシーイングが悪くなる」というものがあります。関東南部の観測者は、み な同じ印象を持っているようで、特に冬場は顕著なようです。原因として、関東地方は西 に富士山を始めとする高い山があるので、西からの季節風が乱されやすいということが言 われています。

そこで、シーイングの空間分布図を作ってみました。木星を観測する際に、シーイングを 10段階で記録しますので、観測日時から木星の高度と方位角を計算し、適当な範囲で平均 を取って図にしました。シーイングは主観的でアテにはなりませんが、筆者はこれまでに 4,000枚以上スケッチを取っていますので、それなりに面白い結果が得られるのではと考 えました。

結果を見ると、確かに西空は良いシーイングの面積が小さくなっていて、上記の印象を裏 付けています。一方、シーイングの良い領域も見られます。高高度で良いのは当然として も、南中時は低空でも良い領域があります。これは、木星の衝が夏場に当たるためです。

また、東から南東の中天に良い領域が多く見られます。筆者の住む横浜市郊外の高台では、 東から弱い風が吹き出すと、驚くほどシーイングが良くなることがあります。ただし、残 念なことに、短時間のうちに曇ってしまいます。筆者は、これは東京湾が原因ではないか と思っています。一般に水辺は大気が不安定と言われますが、東京湾は周囲を陸で囲まれ た、いわば風呂のような海ですので、ある条件が整うと、湿気に富んだ非常に安定な気塊 を作るのかもしれません。

シーイングの空間分布は観測地の局地的な条件をよく反映しているように思います。もっ と客観的なデータが得られれば、面白いことがわかるような気がします。

[図1] シーイングの空間分布
色の濃いところほど、シーイングが良いことを示す。概して東天から難点にかけてシーイングが良い。

前号へ INDEXへ 次号へ