今回は前回に引き続き、マウイでの金星の偏光観測について紹介したいと思います。
偏光とは光の波の振動の向きが偏る現象の事を言います。太陽光は光の振動の向きがほと
んどバラバラで無偏光と言えますが、例えば水面で反射された光は水面に平行な向きに振
動する光の割合が多くなり、偏光した光と言えます。偏光サングラスはその向きに振動す
る光を遮断することができるので、反射光に邪魔されずに水の中がよく見えるようになる
わけです。
惑星からやってくる光は、大気中の雲粒などのエアロゾルや大気分子によって何度も散乱
された結果、私たちの目に届く光です。この散乱という現象によっても光が偏光すること
が知られています(惑星の偏光は数%程度と小さく、偏光板などを使って目で確かめるこ
とは難しいです)。偏光度(偏光した光が含まれる割合、光の振動の向き)は、光を散乱す
る雲粒子の大きさや組成、またそれらが構成する雲の鉛直構造などによって変わります。
従って、それらの物理情報を仮定しモデル計算を行い、観測された偏光度と比較すること
で、それらの情報を推定することができます。
金星の偏光観測は1900年代に入り盛んになり、金星全体が硫酸の雲に覆われていることも、
偏光観測によって示唆されました。従来の方法では太陽位相角(太陽-金星-地球)の変化に
伴う偏光度の変化を観測し、金星の雲の物理情報を導き出してきました。しかしこの方法
では太陽位相角の変化を待たねばならず、解析に必要なデータを揃えるのに時間がかかる
ことや、それに起因して金星の雲の性質が変化している可能性があるといった問題があり
ます。私はこれに対し赤外線の複数の波長で観測を行うことで、1つの位相角、つまり1回
の観測でこれまでよりも精密に物理情報を推定する方法を着想しました。そしてその手法
の実証をすべく、昨年の9月からハワイ大学天文学研究所で準備を行ってきました。今年
の5月には本観測を実施すべく、再度マウイに訪れる予定です。
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[図1] 金星の偏光度 |
Hansen and Hovenier(1974)による金星の偏光度の解析で、データ点は観測、線はモデル計算です。雲粒の半径がたった0.3μm異なるだけで偏光度が大きく変わるため、精密な推定が可能になります。 |
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